脳の障害
高次脳機能障害と保険金(スポーツ振興センターの障害見舞金)|医師監修記事・学校事故専門の弁護士法人小杉法律事務所

学校事故を原因として高次脳機能障害を発症し、後遺症として残存してしまった場合、保険金や給付金の支払を受けることができることがあります。
本稿では、主に高次脳機能障害と日本スポーツ振興センターの災害共済給付における障害見舞金の関係について解説しております。
そもそも高次脳機能障害とは?
⑴高次脳機能障害とその原因
高次脳機能障害とは、主に脳の損傷が原因で引き起こされる障害です。高次脳機能障害の原因となる脳損傷は、交通事故で起こることが多いとされていますが、学校事故においても生じうる可能性が大いにあります。たとえば、体育の授業や運動部の部活動においては、身体に衝撃が加わる機会も多いですから、そうした時の不慮の事故により頭部を怪我すれば、脳損傷を受傷する可能性があります。特に柔道やラグビー等のコンタクトスポーツでは頻回に激しい身体的接触が生じるため、その傾向は顕著といえます。
⑵高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害の症状としては、記憶障害や注意力の低下、計画を立てたり計画通りに物事を進めることができなくなる遂行機能障害、怒りやすくなったり自己中心的になるなどの人格の変化やそれによる対人関係の構築が困難になるなどの社会適応能力の低下などが挙げられます。
このような症状が現れると、日常生活や社会生活において支障が生じることとなり、本人だけでなく周囲の人々にも大きな影響を及ぼすことが多いです。くわえて、高次脳機能障害は擦り傷や骨折などのように外見的には分からない障害(このため高次脳機能障害は「目に見えない障害」とも呼ばれています)ですので、本人も周囲の人々も高次脳機能障害の存在になかなか気付けないことがしばしばあります。
高次脳機能障害でもらえる保険金は何がある?
⑴災害共済給付の障害見舞金
学校事故による脳損傷を原因として高次脳機能障害が生じ、後遺症が残存してしまった場合、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付の支払を求めることができるときがあります。被害児童・生徒が在籍している学校がスポーツ振興センターとの間で災害共済給付契約を結んでおり、学校設置者と保護者が共済掛金を支払っていれば、この災害共済給付制度を利用することができます。
スポーツ振興センターの災害共済給付制度が定める後遺障害等級に関し、高次脳機能障害で認定される可能性がある等級と支払われる金額は次のとおりとなります(カッコ内の金額は、通学中及びこれに準ずる場合の障害見舞金額)。なお、障害見舞金支払請求の手続きの流れについては後述します。
・第1級の3 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの:4000万円(2000万円)
・第2級の3 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの:3600万円(1800万円)
・第3級の3 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの:3140万円(1570万円)
・第5級の2 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの:1820万円(910万円)
・第7級の4 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの:1270万円(635万円)
・第9級の10 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの:590万円(295万円)
また、9級以上の高次脳機能障害としての後遺症の残存は認めがたいものの、脳挫傷の画像所見がある等によって神経症状の残存が認められる場合には12級が、脳挫傷の画像所見等の他覚所見は認められないものの治療状況や症状経過等から将来的に神経症状が残存することが説明可能である場合には14級が認定されることがあります。
・第12級の13 局部に頑固な神経症状を残すもの:225万円(112万5000円)
・第14級の9 局部に神経症状を残すもの:88万円(44万円)
⑵その他の保険金
スポーツ振興センターの障害見舞金の他、学校が別個に災害補償保険に加入していることがあります。また、公立学校の場合に、市町村が学校災害補償保険に加入していることもあるようです。こうした場合には学校もしくは市町村の教育委員会等から保険金支払いに関する案内が来ることが多いです。こうした保険については、お住まいの市町村や通学されてある学校等によっても異なってきますので、スポーツ振興センターで等級認定がされたのちに確認してみるのもよいかもしれません。
また、今では、交通事故のみならず、学校での事故等も含めた日常生活における事故での傷害・後遺障害について補償する個人型の保険契約も見られるようになりました。ご加入されてある保険契約の内容によっては、学校事故で後遺障害が残存した場合に保険金が下りるものがあるかもしれませんので、保険会社に確認してみるのも一つの手ではないかと思います。
スポーツ振興センターの障害見舞金支払請求手続きの流れ
学校事故発生からスポーツ振興センターの障害見舞金支払請求手続きまでの流れについては、次のとおりとなります。
学校事故発生・受傷→治療→高次脳機能障害等の後遺症が残存したら、症状固定診断→障害診断書等の書類を作成→学校に書類を提出→学校からスポーツ振興センターに請求書類一式を送付→スポーツ振興センターで後遺障害に関する調査が行われる→調査結果が出たら学校経由で被害児童・生徒の家族らに案内
⑴事故発生~症状固定診断と障害診断書作成
事故発生後は、なるべく早い段階で医療機関にかかることが望ましいです。何故ならば、受傷から初診までに期間が空いてしまうと、学校事故受傷と症状(後遺症)との因果関係について否定される恐れが生じてしまうからです。もしも受傷後にはあまり症状がなかったとしても、時間経過とともに発症する可能性もありますから、ひとまず早い段階で初診にかかり、診察を受けるのが良いでしょう。また、頭を打ちつけた等の頭部受傷がある場合には、レントゲンだけでなく、頭部MRI等を撮影して脳損傷の有無を確認しておきましょう。
また、治療を続ける中で完治に至ればそれが一番良いのですが、残念ながら後遺症が残存してしまうことがあります。脳損傷を負傷した場合には、高次脳機能障害などの障害が残ってしまうこともあります。こうして、治療によってこれ以上症状が軽くならない状態に至ることを「症状固定」といいます。スポーツ振興センターの障害見舞金支払請求を行うには、主治医に症状固定診断をしてもらい、障害診断書を作成してもらう必要があります。障害診断書の様式は学校から送られてくることが多いと思いますが、日本スポーツ振興センターの公式HPにて公開されていますので、そちらを利用いただくかたちでも大丈夫です。
⑵障害見舞金支払請求手続き~調査結果が出るまで
症状固定診断後、主治医に障害診断書を作成してもらうことができたら、学校に提出することになります。スポーツ振興センターの災害共済給付契約の契約主体は学校ですので、学校からスポーツ振興センターに書類一式が送られるかたちで請求手続きがなされます。なお、障害見舞金の支払請求権については時効があり、「負傷又は疾病が治った日(=症状固定日のこと)の属する月の翌月10日の翌日(11日)から起算して2年」とされています。たとえば、令和7年8月15日に症状固定した場合、令和9年9月10日までに障害見舞金の支払請求手続きを行う必要があります。
学校からスポーツ振興センターに請求書類一式が送られたら、スポーツ振興センターで調査が開始されることとなります。この後は、基本的には調査結果が出るまで待つことになりますが、障害診断書の内容について不備等がある場合にはスポーツ振興センターより医療照会依頼がなされることがありますので、その際は適宜対応する必要があります。また請求手続きを行ってから結果が出るまでの期間は、経験上、事案に応じてまちまちであることが多いため、具体的に目安を示すことが難しいですが、高次脳機能障害での請求手続きの場合には、慎重な判断を要するため、時間がかかる可能性が非常に高いです。
調査が終了して等級判断が決定したら、スポーツ振興センターから学校に通知され、学校から被害児童・生徒のご家族に連絡が来ることが一般的です。等級が認定されていれば、障害見舞金の支払い手続きを進めることになります。
⑶「学校の管理下」・「保育所の管理下」の定義
災害共済給付は、「学校管理下の事故」・「保育所管理下の事故」による傷病や後遺症について給付金を支払うものと法律上で定めていますが、ではこの「学校の管理下」・「保育所の管理下」の範囲はどのようなものになるでしょうか。この点につき、独立行政法人日本スポーツ振興センター法施行令及び独立行政法人日本スポーツ振興センターに関する省令によれば、「学校の管理下」(及び「保育所の管理下」)の範囲について、次のとおりと定めています。
①「学校の管理下」の範囲
1 児童生徒等が、法令の規定により学校が編成した教育課程に基づく授業を受けている場合
2 児童生徒等が学校の教育計画に基づいて行われる課外指導を受けている場合
3 前2に掲げる場合のほか、児童生徒等が休憩時間中に学校にある場合その他校長の指示又は承認に基づいて学校にある場合
4 児童生徒等が通常の経路及び方法により通学する場合
5 前1~4に掲げる場合のほか、これらの場合に準ずる次の場合
- 学校の寄宿舎に居住する児童生徒等が、当該寄宿舎にあるとき。
- 児童生徒等が、学校以外の場所であって前1の授業もしくは前2の課外指導が行われる場所(当該場所以外の場所において集合し、又は解散するときは、その場所を含む。)又は前⑴の寄宿舎と住居との間を、合理的な経路及び方法により往復するとき。
- 高等学校の定時制の過程又は通信制の課程に在学する生徒が、技能教育のための施設で教育を受けているとき。
※高校生及び高専生の全校生徒を対象として学校行事の一環として計画し、実施する修学旅行は給付対象とされています。
※高校生及び高専生の海外研修や海外実習等については、学校が編成した教育課程又は学校の教育計画に基づき当該校の教師の適切な監督指導の下に実施されるものについては「学校の管理下」とされます。この場合、「学校の管理下」となるか否かの判定は、国内で実施される研修等と同様の基準となります。
※高校生及び高専生の海外留学については、単位の修得を認定できる場合も見受けられるものの、国内と同様の安全管理体制を整備することは困難であると思慮されるため、スポーツ振興センターの災害共済給付上の「学校の管理下」には該当しません。
②「保育所の管理下」の範囲
1 児童が保育を受けている場合
2 児童が通常の経路及び方法により保育所に通い、又は保育所から帰宅する場合
3 前1~2に掲げる場合のほか、文部科学大臣が厚生労働大臣と協議してこれらの場合に準ずる場合として定める場合
※「保育所の管理下」は、幼稚園等の場合と全く同様に取り扱われ、差異はありません。
おわりに

本稿では、主高次脳機能障害が後遺症として残った場合の保険金・給付金について、主にスポーツ振興センターの障害見舞金を軸に解説しました。
学校事故で頭部外傷を負い、外傷性の高次脳機能障害を受傷した場合、相手方に対しての損害賠償請求を適切に行うためには、受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。
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また、高次脳機能障害に関する詳しいことは以下のページで解説しておりますので、こちらも合わせてご覧ください。
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