学校事故 障害等級の解説

脊髄の障害

脊髄損傷|腰髄損傷の症状は?後遺障害は?【学校事故被害者専門弁護士】

本稿では、授業中や部活動中などの学校の管理下における事故や、登下校中の事故といった学校事故によって腰髄損傷を負った場合の症状や後遺症、後遺障害について、学校事故被害者専門弁護士に視点から解説いたします。

腰髄について

脊髄中枢神経の一つであり、脳と並んで人間の生命活動に関し非常に大きな役割を担っています。

そんな脊髄の主な役割は、神経伝達経路機能です。

脳から身体各部に向かって送られる運動神経の信号は脊髄を通して各部に伝達し、

皮膚組織等から脳に向かって送られる感覚神経の信号も、脊髄を介して脳へと届きます。

そして、体温調節や代謝に関わる交感神経の神経伝達経路でもあるため、

脊髄は運動神経、感覚神経、自律神経が上手く働く上で不可欠なものといえます。

また、脊髄からは全身に微細な神経が伸び出ており、これは末梢神経と呼ばれます。

 

脊髄は、部位によって、頚髄、胸髄、腰髄、仙髄の大きく4つに分けられます。

その中でも腰髄は、第11胸椎~第1腰椎のあたりに通っている脊髄を指しており、

その高位(レベル)に応じて第1腰髄~第5腰髄の5節に分けられています(これを髄節といいます)。

腰髄の髄節は、一般に、第1腰髄から順にL1、L2、…、L5と呼ばれることが多いです。

また、腰髄の神経支配領域は主に下腹部~下肢(ほぼ下半身全体)となります。

 

なお、腰髄は脊髄の末端近く、円錐上部と呼ばれる部分に位置しており、

腰髄の髄節は頚髄や胸髄と比べて幅があまり大きくありません。

つまり、一度の外傷によって複数の髄節を損傷する可能性もあり、そのため複数箇所に腰髄損傷の症状がみられることもあります。

腰髄損傷の症状

一般に脊髄を損傷すると、損傷高位(レベル)から下方の脊髄の神経が司る部位について障害が生じることになります。

そのため、損傷高位が高位であればあるほど、症状の現れる範囲も広くなる傾向にあります。

大まかな神経支配領域は、

頚髄が頭部や上肢、胸髄が胸部や背部、腰髄が下半身の運動神経や感覚神経であることから、

腰髄損傷の場合は下半身に症状が現れることが多いです。

以下では具体的な症状を解説していきます。

⑴下半身麻痺

腰髄損傷を負うことにより、損傷の程度に応じて下半身に完全麻痺または不全麻痺を生じることとなります。

たとえば足を動かす場合、脳から運動神経の信号が出て、これが脊髄を通り下肢に伝達されることによって、足を動かすことができます。

しかし、腰髄を損傷してしまうと、損傷髄節より先にこの脳からの信号を伝達することができなくなるため、結果として運動麻痺の症状が現れることとなります。

なお、麻痺の現れ方は損傷の態様によって異なり、片足だけに麻痺が出ることもあれば、左右両足に現れることもあります。

⑵感覚異常

皮膚組織で感じ取る温冷覚や痛覚といった表在感覚や、骨や筋組織等の内部組織で感じ取る位置覚や振動覚といった深部感覚について、感覚消失や感覚鈍麻が生じます。

通常、表在感覚や深部感覚によって感じ取った刺激は、信号となって脊髄を介して脳に伝達され、この信号が脳に届くことにより、私たちは冷たさや痛み、振動などを感知する仕組みになっています。

しかし、脊髄が損傷されることにより、この感覚神経にかかる信号が脳に伝達される経路が阻害されてしまうため、感覚障害が生じることとなります。

前述のとおり、腰髄は髄節の幅が広くないので、一度に複数の髄節を損傷することも稀ではありません。

そのため腰髄損傷の場合、下半身の広い範囲に感覚障害が現れる傾向があります。

⑶膀胱機能障害(神経因性膀胱障害)

排尿や蓄尿に関わる膀胱や陰部は、脳からの指令によって制御が行われています。

そのため腰髄が損傷されると、これらの膀胱機能に関する脳からの信号がこれらの器官に届きにくくなります。

神経伝達経路が阻害されたことで、尿意を感じなくなったり、随意的に排尿することが難しくなります

また排尿に伴い蓄尿にも支障が生じることがあり、尿が尿管を逆流してしまい尿路感染症といった二次感染症を併発する恐れもあります。

後遺症と後遺障害等級

脊髄損傷が生じた場合の等級の認定は、原則として、身体的所見、関節の可動域制限や徒手筋力の程度及びMRI・CT等によって裏付けることのできる麻痺の範囲と程度、そして介護の要否及び程度により障害等級を認定していきます

授業中や部活動中、また課外指導中などの学校の管理下で起こった事故や、登下校中の事故により胸髄を損傷し、治療を続けたが後遺症が残ってしまった場合、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度に定められている障害見舞金の支払の請求ができることがあります。

腰髄損傷の場合に認定される可能性がある後遺障害等級は、主に以下のとおりとなります。

参考:日本スポーツ振興センター 障害等級表

なお、等級認定された場合に支給される障害見舞金の金額は、障害が生じた時点が平成31年3月31日以前であるか同年4月1日以降であるかによって異なります。本稿では、平成31年4月1日以降の金額にて記載しておりますのでご注意ください。

第1級の3

せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」は、第1級の3が認定されます。支給される障害見舞金は4000万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は2000万円)となります。

同等級が認定されるのは、以下の4つの場合です。

①高度の四肢麻痺が認められるもの

②高度の対麻痺が認められるもの

③中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

④中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

腰髄損傷の場合には下肢の対麻痺が見られることがあるので、②や④に該当する可能性があるでしょう。

第2級の3

せき髄症状のため、生命の維持に必要な身のまわり処理の動作について随時介護を要するもの」は、第2級の3が認定されます。支給される障害見舞金は3600万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は1800万円)となります。

同等級が認定されるのは、以下の3つの場合です。

①中等度の四肢麻痺が認められるもの

②軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

③中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

腰髄損傷で該当する可能性があるのは、③の場合になるかと考えられます。

第3級の3

生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、せき髄症状のために学校生活に著しい制限を受けているもの」は、第3級の3が認定されます。支給される障害見舞金は3140万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は1570万円)となります。

同等級が認定されるのは、以下の2つの場合です。

①軽度の四肢麻痺が認められるもの(第2級の3②に該当するものを除く。)

②中等度の対麻痺が認められるもの(第1級の3④又は第2級の3③に該当するものを除く。)

腰髄損傷の場合、基本的に四肢麻痺は生じないことが殆どのため、該当する可能性があるのは主に②になるでしょう。

第5級の2

せき髄症状のため、学校生活に制限を受けており、極めて軽易な活動しか行うことができないもの」は、第5級の2が認定されます。支給される障害見舞金は1820万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は910万円)となります。

同等級が認定されるのは、以下の2つの場合です。

①軽度の対麻痺が認められるもの

②一下肢の高度の単麻痺が認められるもの

腰髄損傷の場合、後遺症の程度によって、①、②のどちらかに該当する可能性があります。

第7級の4

せき髄症状のため、学校生活に制限を受けており、軽易な活動しか行うことができないもの」は、第7級の4が認定されます。支給される障害見舞金は1270万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は635万円)となります。

同等級が認定されるのは、一下肢の中等度の単麻痺が認められるものが該当します。

第9級の10

通常の学校生活を送ることはできるが、せき髄症状のため、参加可能な活動が相当程度に制限されるもの」は、第9級の10が認定されます。支給される障害見舞金は590万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は295万円)となります。

同等級が認定されるのは、一下肢の軽度の単麻痺が認められるものが該当します。

第12級の13

通常の学校生活を送ることはできるが、せき髄症状のため、多少の障害を残すもの」は、第12級の13が認定されます。支給される障害見舞金は225万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は112万5000円)となります。

同等級が認定されるのは、運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺(軽微な随意運動の障害又は軽度の筋緊張の亢進が認められるもの)を残すものが該当します。また、運動障害は認められないものの、広範囲(概ね一上肢又は一下肢の全域)にわたる感覚障害が認められるものも該当します。

おわりに

スポーツ振興センターに正しく後遺症の状態を認識してもらい、適切な後遺障害等級審査を行ってもらうためには、

障害見舞金支払申請時に必要な後遺障害診断書に症状や医学的所見をもれなく書いてもらったり、

脊髄損傷の態様について判定した書類等さまざまな書類を準備したり、

医学的に後遺症を証明するような所見を得るために必要な検査を受けたりと、重要なポイントが数多くあります。

したがって、スポーツ振興センターに申請を行う段階から、等級獲得に向けて押さえるべきポイントを把握したうえで用意を行うことが望ましく、

そのためには後遺障害に関する経験や専門的知識が不可欠だといえます。

弁護士法人小杉法律事務所では、学校事故被害者専門弁護士による無料相談を実施しております。

学校事故によりお子さんが腰髄損傷を負った場合、懸命の治療をしたが後遺症が残ってしまった場合…

腰髄損傷含め脊髄損傷は麻痺や感覚異常など症状も決して軽くないため、大変なことも多いと思います。

お悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。

後遺症被害者専門弁護士への無料相談はこちらのページから。

また、脊髄損傷の症状や治療・リハビリ、損害賠償請求とのかかわり等、脊髄損傷に関する詳しいことは以下のページで解説しておりますので、こちらも合わせてご覧ください。

●脊髄損傷全般の解説や、その他脊髄損傷に関する記事についてはこちらから。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。