学校事故 障害等級の解説

脊髄の障害

脊髄損傷|神経因性膀胱障害(蓄尿・排尿障害)とは?【学校事故専門弁護士解説】

学校事故によって脊髄損傷を負った場合、

損傷した脊髄の部位に応じて運動機能障害(麻痺)や感覚障害が現れることとなります。

これらの症状とともに、神経因性膀胱障害(蓄尿・排尿障害)が併発するケースが多く見られます。

本稿では、脊髄損傷によって生じる神経因性膀胱障害について、そのメカニズムや後遺障害との関係を解説します。

なお、脊髄損傷について、頚髄・胸髄・腰髄の損傷高位別に症状や後遺障害等級について解説したページもありますので、詳しくは以下のページをご覧ください。

頚髄損傷(頸髄損傷)の症状や後遺障害についてはこちら

胸髄損傷の症状や後遺障害についてはこちら

腰髄損傷の症状や後遺障害についてはこちら

神経因性膀胱障害とは

「神経因性膀胱障害」という言葉は、聞き馴染みのない言葉だと思います。

この障害は、「膀胱を制御する脳からの信号」と「膀胱」との神経伝達経路である脊髄に異常が生じたために、膀胱の機能である蓄尿機能・排尿機能が上手く働かなくなることをいいます。

脊髄の異常の代表的なものが脊髄損傷であり、学校の管理下でいうならば、体育の授業や部活動中などが、脊髄損傷を負うような事故が発生する可能性があります。特に、身体への激しい接触や衝撃を伴うラグビーや柔道であったり、高所での演技があるチアリーディングは、他の活動に比べてその可能性が大きいといえます。

⑴蓄尿・排尿に関する神経系のメカニズム

まず、蓄尿に関する神経系のメカニズムですが、膀胱に尿が溜まることで膀胱が広がると、膀胱壁内にある神経がこれを感知し、脳に向かって信号が送られます。大脳や脳幹部排尿中枢で尿意として感知される際、排尿反射が起こらないように、大脳によって排尿中枢反射が抑制されます。これと同時に、膀胱や尿道括約筋の収縮・弛緩に関する信号が脊髄を通して伝達され、蓄尿時には膀胱を弛緩し、尿道を収縮させるような信号が送られます。これにより、普段は排尿を抑制しつつ、膀胱に尿を溜めることができます。

次に、排尿に関する神経系のメカニズムについて概要を説明します。

随意的な尿の排出を効率よく行うにあたっては、膀胱の十分かつ持続的な収縮と、尿道括約筋の十分な弛緩といった、膀胱と尿道括約筋の協調運動が重要となります。排尿時には、蓄尿時に行われていた大脳からの排尿中枢反射の抑制が解除され、排尿中枢から脊髄に信号が送られます。信号は仙髄の副交感神経や骨盤神経を介し、膀胱を収縮させるとともに、尿道括約筋を弛緩させ、随意的排尿ができるように働きかけます。

このように、蓄尿・排尿といった下部尿路機能は、中枢神経や末梢神経からの制御を受けつつ成立するものとなります。

⑵神経因性膀胱障害の発生と症状

しかし、脊髄損傷を負った場合、損傷高位より下位には脳からの信号が届かなくなったり、逆に損傷高位より下位の神経から脳に向かう信号が脳に届かなくなることになります。そのため、膀胱に尿が溜まっていることを伝達するための信号は脳に届かなくなってしまい、他方、脳からの排尿に関する信号も損傷高位より下位の脊髄や排尿にかかわる末梢神経に届かなくなってしまうこととなります。

結果として、尿意を感知することができなくなり、排尿中枢の制御も失われることになります。また、脳からの信号が下部尿路機能にかかる神経に届かなくなるため、膀胱や尿道括約筋を収縮させたり弛緩させることもできなくなり、通常の蓄尿や排尿が困難もしくは不可能となります。

脊髄損傷による神経因性膀胱障害が生じると、自分の力では尿を排出できなくなったり溢流性尿失禁(膀胱に尿を溜めきれずあふれてしまうことにより起きる失禁)が起きたり、膀胱尿管逆流等の症状が現れます。

⑶損傷高位と神経因性膀胱障害のかかわり

症状の程度は、一般に損傷高位が上位のレベルであるにつれて現れる症状も重度になる傾向にあります。

頚髄損傷の場合、脊髄の神経伝達経路が大幅に障害されることになるため、神経因性膀胱障害が発生する可能性が非常に高いです。またその症状も重いことが多く、二次的な感染症を発症してしまう恐れがあることから、膀胱瘻(ぼうこうろう)の増設等を行う必要性が生じることもあります。

上位胸髄損傷の場合にも、やはり神経因性膀胱障害が生じる可能性が高いです。下位胸髄損傷や腰髄損傷の場合にもこの障害が発生する可能性はありますが、頚髄損傷や上位胸髄損傷の場合と比べ症状は軽度であることが多いようです。

ただしこれはあくまで傾向であり、症状の重さは、脊髄損傷が完全損傷か不完全損傷か、不完全損傷の場合には損傷範囲がどの程度かによっても異なってきますので、その点には注意が必要です。

後遺障害について

学校の管理下における事故や登下校中の事故によって脊髄損傷を負い、治療やリハビリを行うも後遺症が残ってしまった場合、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度に定められている後遺障害見舞金支払請求ができる可能性があります。

脊髄損傷の後遺症に関する等級認定の判断は、基本的に、麻痺の程度や範囲並びに介護の要否や有無に着目して行われますが、脊髄損傷においては神経因性膀胱障害や脊柱の障害等も通常伴って生じうるため、実際にはこれらも含めて総合的に考慮した上で等級認定がなされます。すなわち、神経因性膀胱障害単体に後遺障害等級が認定されるというよりは、脊髄損傷の後遺症の後遺障害等級を判断するための要素の一つとして考慮されるかたちです。

脊髄損傷による運動麻痺や感覚障害等の症状は、脊髄損傷の損傷高位や程度、損傷の態様等によって異なってきますので、一概に「頚髄損傷があって神経因性膀胱障害があるなら●級」とは言えないところがあります。

そのため、以下では、脊髄損傷に関する障害として認定される可能性がある等級について解説いたします。

参考:独立行政法人日本スポーツ振興センター 障害等級表

なお、等級認定された場合に支給される障害見舞金の金額は、障害が生じた時点が平成31年3月31日以前であるか同年4月1日以降であるかによって異なります。本稿では、平成31年4月1日以降の金額にて記載しておりますのでご注意ください。

第1級の3

せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」は、第1級の3が認定されます。支給される障害見舞金は4000万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は2000万円)となります。

同等級が認定されるのは、以下の4つの場合です。

①高度の四肢麻痺が認められるもの

②高度の対麻痺が認められるもの

③中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

④中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

第2級の3

せき髄症状のため、生命の維持に必要な身のまわり処理の動作について随時介護を要するもの」は、第2級の3が認定されます。支給される障害見舞金は3600万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は1800万円)となります。

同等級が認定されるのは、以下の3つの場合です。

①中等度の四肢麻痺が認められるもの

②軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

③中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

第3級の3

生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、せき髄症状のために学校生活に著しい制限を受けているもの」は、第3級の3が認定されます。支給される障害見舞金は3140万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は1570万円)となります。

同等級が認定されるのは、以下の2つの場合です。

①軽度の四肢麻痺が認められるもの(第2級の3②に該当するものを除く。)

②中等度の対麻痺が認められるもの(第1級の3④又は第2級の3③に該当するものを除く。)

第5級の2

せき髄症状のため、学校生活に制限を受けており、極めて軽易な活動しか行うことができないもの」は、第5級の2が認定されます。支給される障害見舞金は1820万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は910万円)となります。

同等級が認定されるのは、以下の2つの場合です。

①軽度の対麻痺が認められるもの

②一下肢の高度の単麻痺が認められるもの

第7級の4

せき髄症状のため、学校生活に制限を受けており、軽易な活動しか行うことができないもの」は、第7級の4が認定されます。支給される障害見舞金は1270万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は635万円)となります。

同等級が認定されるのは、一下肢の中等度の単麻痺が認められるものが該当します。

第9級の10

通常の学校生活を送ることはできるが、せき髄症状のため、参加可能な活動が相当程度に制限されるもの」は、第9級の10が認定されます。支給される障害見舞金は590万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は295万円)となります。

同等級が認定されるのは、一下肢の軽度の単麻痺が認められるものが該当します。

第12級の13

通常の学校生活を送ることはできるが、せき髄症状のため、多少の障害を残すもの」は、第12級の13が認定されます。支給される障害見舞金は225万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は112万5000円)となります。

同等級が認定されるのは、運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺(軽微な随意運動の障害又は軽度の筋緊張の亢進が認められるもの)を残すものが該当します。また、運動障害は認められないものの、広範囲(概ね一上肢又は一下肢の全域)にわたる感覚障害が認められるものも該当します。

 

神経因性膀胱障害とのかかわりでいうと、たとえば頚髄損傷によって中等度の四肢麻痺や感覚障害、神経因性膀胱障害が残ってしまい、自力では食事をしたり着替えたり、排泄することができず、常に家族や職業介護人による介護が必要となる程度の後遺症であると認められる場合には、「中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの」として第1級の3が認定される、といったイメージになります。

おわりに

スポーツ振興センターに正しく後遺症の状態を認識してもらい、適切な後遺障害等級審査を行ってもらうためには、

障害見舞金支払申請時に必要な後遺障害診断書に症状や医学的所見をもれなく書いてもらったり、

脊髄損傷の態様について判定した書類等を準備したり、

医学的に後遺症を証明するような所見を得るために必要な検査を受けたりと、重要なポイントが数多くあります。

したがって、スポーツ振興センターに申請を行う段階から、等級獲得に向けて押さえるべきポイントを把握したうえで用意を行うことが望ましく、

そのためには後遺障害に関する経験や専門的知識が不可欠だといえます。

弁護士法人小杉法律事務所では、学校事故被害者専門弁護士による無料相談を実施しております。

学校事故によりお子さんが脊髄損傷を負った場合、懸命の治療をしたが後遺症が残ってしまった場合…

脊髄損傷は症状も重く、場合によっては介護のことや車椅子やベッド等の器具の購入のこと、

なにより生活が大きく一変してしまう可能性もあり、精神面でも大きな傷を負うこともあるかもしれません。

そのような中で、損害賠償請求のことや後遺障害のことまで考えるとなると、負担も図り知れません。

こうしたことでお悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。

後遺症被害者専門弁護士への無料相談はこちらのページから。

また、脊髄損傷の症状や治療・リハビリ、損害賠償請求とのかかわり等、脊髄損傷に関する詳しいことは以下のページで解説しておりますので、こちらも合わせてご覧ください。

●脊髄損傷全般の解説や、その他脊髄損傷に関する記事についてはこちらから。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。