学校事故 障害等級の解説

脊髄の障害

脊髄損傷|頚髄損傷(頸髄損傷)の症状は?後遺障害等級は?【学校事故専門弁護士解説】

本稿では、授業中や部活動中などの学校の管理下や、登下校中の事故など、学校事故で頚髄損傷(頸髄損傷)を負傷した場合の症状や後遺障害について、学校事故被害者専門弁護士の視点から説明いたします。

 

なお、漢字表記について、「頚髄」と「頸髄」を併記しておりますが、

いずれも意味の違いはなく、同じものを指します。

本稿では、日本医学会用語管理委員会が使用を推奨する「頚」にて統一的に表記いたします。

「頚髄」について

人間の中枢神経は脳と脊髄であり、脊髄は脳から垂れるかたちで存在しています。

脊髄は背骨に守られる形で背中に通っており、脊髄から手足含めて体全体に神経が伸び出る構造になります。

脊髄は神経伝達経路の機能を持っており、運動神経や感覚神経、また自律神経を司る非常に重要な部分です

そんな脊髄は、部位によって大きく4つに分けることができ、

頭に近いほうから、「頚髄」、「胸髄」、「腰髄」、「仙髄」とそれぞれ呼ばれます。

頚髄は首のあたりに位置しており、首回りや上肢に神経を伸ばしています(神経支配領域)。

頚髄損傷の症状

一般に、脊髄損傷を負った場合、損傷レベル以下に様々な症状が現れます

そのため損傷レベルが高位であればあるほど、症状の現れる範囲が広くなり、症状も重篤になる傾向があります。

頚髄は脊髄の中で最も脳に近い(高位である)ことから、頚髄損傷で現れる症状は重いことが多いです。

⑴運動機能の麻痺

頚髄損傷の場合、四肢や体幹に運動麻痺が生じることが多いです(四肢麻痺といいます)。

運動機能の信号は、脳から脊髄を通って上下肢や体幹に伝達されており、これによって人間は体を動かすことができます。

しかし、頚髄を損傷することにより、脳からの信号が損傷高位以下に伝達することができなくなり、そのため手足などに信号が届かなくなります。これにより運動機能に障害が生じ、手足の動かしにくさの症状(麻痺)が現れます。

麻痺の程度については、損傷した頚髄の高位によって異なります。頚髄の高位は8つの髄節に分けられ、脳から近い順に第1頚髄~第8頚髄(C1~C8)と呼ばれています。

C1~C3を損傷した場合、上下肢及び体幹すべてに信号が伝達できなくなり、四肢麻痺が生じる可能性が高いです。

損傷の程度によっては完全麻痺になる恐れもあり、そうなると自分の意識で体を動かすことが極めて困難となります。

C4、C5損傷の場合も四肢麻痺を生じることが多くみられます。

上腕の筋肉に信号を伝える神経に障害が出るため、ひじの曲げ伸ばしに影響が出ることが多いです。

C6、C7を損傷した場合にも四肢麻痺が生じることがあります。

上肢の麻痺については若干軽いこともあり、その場合には肩を動かしたり、ひじの曲げ伸ばしは多少可能でありますが、手関節や指には麻痺が現れることが多いです。

 

なお上述のように、頚髄損傷の場合、その損傷高位がいずれであっても下半身不随(下肢麻痺)になる可能性が非常に高いです。理由としては、下肢を神経支配領域とする腰髄が頚髄よりも下位にあたるため、下肢の運動機能の信号が腰髄まで届かなくなるからです。

⑵呼吸障害・呼吸停止

頚髄損傷すると、呼吸障害が生じることが多いです。

理由としては、呼吸において重要な役割を果たす器官である横隔膜に信号を送る脊髄の高位がC3~C5にあるためです。

このため、上位頚髄を損傷した場合には、自発呼吸が停止する恐れもあり、最悪の場合には死に至るケースもあります。

⑶自律神経障害

人間の体は、体温や血圧を一定に保つために、自律神経によって調節がなされています(恒常性)。

しかし、自律神経の一つである交感神経は、上位胸髄から腰髄にかけて存在するため、頚髄を損傷することによって交感神経の働きも阻害されることになります。

そのため発汗異常や、上手く体温調節ができなくなる、また代謝異常が生じる等の症状が現れます。

⑷膀胱機能障害(神経因性膀胱障害)

排尿や蓄尿に関わる膀胱や陰部は、脳からの指令によって制御が行われています。そのため頚髄が損傷されると、排尿などに関する脳からの信号がこれらの器官に届かなくなります。

神経伝達経路が断たれたことで、尿意を感じなくなったり、随意的に排尿することが困難になります

また蓄尿にも支障が生じ、尿が尿管を逆流してしまい尿路感染症といった二次感染症を併発する恐れもあります。

⑸感覚異常

皮膚組織で感じ取る温冷覚や痛覚といった表在感覚や、骨や筋組織等の内部組織で感じ取る位置覚や振動覚といった深部感覚について、感覚消失や感覚鈍麻が生じます。

通常、表在感覚や深部感覚によって感じ取った刺激は、信号となって脊髄を介して脳に伝達され、この信号が脳に届くことにより、私たちは冷たさや痛み、振動などを感知する仕組みになっています。

しかし、脊髄が損傷されることにより、この感覚神経にかかる信号が脳に伝達される経路が阻害されてしまうため、感覚障害が生じることとなります。

頚髄損傷の場合は、上下肢や体幹といった体全体に感覚障害が現れるケースが多く見られます。

頚髄損傷の後遺症の後遺障害等級

脊髄が損傷された場合、四肢麻痺や対麻痺(下半身麻痺)が現れる可能性があり、それとともに感覚障害や尿路障害(神経因性膀胱障害)などの腹部臓器の障害が通常認められます。また、脊柱の変形や運動障害がみられることもあります。

このように、脊髄損傷では複雑な諸症状を呈する場合が多いですが、脊髄損傷が生じた場合の等級の認定は、原則として、身体的所見、関節の可動域制限や徒手筋力の程度及びMRI・CT等によって裏付けることのできる麻痺の範囲と程度、そして介護の要否及び程度により障害等級を認定していきます

授業中や部活動中、また課外指導中などの学校の管理下で起こった事故や、登下校中の事故により脊髄を損傷し、治療を続けたが後遺症が残ってしまった場合、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度に定められている障害見舞金の支払の請求ができることがあります。脊髄損傷の場合に認定される可能性がある後遺障害等級は、主に以下のとおりとなります(参考:日本スポーツ振興センター 障害等級表

なお、等級認定された場合に支給される障害見舞金の金額は、障害が生じた時点が平成31年3月31日以前であるか同年4月1日以降であるかによって異なります。本稿では、平成31年4月1日以降の金額にて記載しておりますのでご注意ください。

第1級の3

せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」は、第1級の3が認定されます。支給される障害見舞金は4000万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は2000万円)となります。

同等級が認定されるのは、以下の4つの場合です。

①高度の四肢麻痺が認められるもの

②高度の対麻痺が認められるもの

③中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

④中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

第2級の3

せき髄症状のため、生命の維持に必要な身のまわり処理の動作について随時介護を要するもの」は、第2級の3が認定されます。支給される障害見舞金は3600万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は1800万円)となります。

同等級が認定されるのは、以下の3つの場合です。

①中等度の四肢麻痺が認められるもの

②軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

③中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

第3級の3

生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、せき髄症状のために学校生活に著しい制限を受けているもの」は、第3級の3が認定されます。支給される障害見舞金は3140万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は1570万円)となります。

同等級が認定されるのは、以下の2つの場合です。

①軽度の四肢麻痺が認められるもの(第2級の3②に該当するものを除く。)

②中等度の対麻痺が認められるもの(第1級の3④又は第2級の3③に該当するものを除く。)

第5級の2

せき髄症状のため、学校生活に制限を受けており、極めて軽易な活動しか行うことができないもの」は、第5級の2が認定されます。支給される障害見舞金は1820万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は910万円)となります。

同等級が認定されるのは、以下の2つの場合です。

①軽度の対麻痺が認められるもの

②一下肢の高度の単麻痺が認められるもの

第7級の4

せき髄症状のため、学校生活に制限を受けており、軽易な活動しか行うことができないもの」は、第7級の4が認定されます。支給される障害見舞金は1270万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は635万円)となります。

同等級が認定されるのは、一下肢の中等度の単麻痺が認められるものが該当します。

第9級の10

通常の学校生活を送ることはできるが、せき髄症状のため、参加可能な活動が相当程度に制限されるもの」は、第9級の10が認定されます。支給される障害見舞金は590万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は295万円)となります。

同等級が認定されるのは、一下肢の軽度の単麻痺が認められるものが該当します。

第12級の13

通常の学校生活を送ることはできるが、せき髄症状のため、多少の障害を残すもの」は、第12級の13が認定されます。支給される障害見舞金は225万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は112万5000円)となります。

同等級が認定されるのは、運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺(軽微な随意運動の障害又は軽度の筋緊張の亢進が認められるもの)を残すものが該当します。また、運動障害は認められないものの、広範囲(概ね一上肢又は一下肢の全域)にわたる感覚障害が認められるものも該当します。

おわりに

スポーツ振興センターにきちんと後遺症の状態を認識してもらい、適切な後遺障害等級審査を行ってもらうためには、

障害見舞金支払を申請する際に必要な後遺障害診断書に、症状や医学的所見をもれなく医師に書いてもらったり、後遺障害診断書に加えてさまざまな書類を準備したり、医学的に後遺症を証明するような所見を得るために必要な検査を受けたりと、重要なポイントが数多くあります。

したがって、障害見舞金支払の申請をする段階から、等級獲得に向けて押さえるべきポイントを把握したうえで用意をしていくことが望ましく、そのためには後遺障害に関する経験や専門的知識が不可欠といえます

 

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また、学校事故における脊髄損傷につきまして、

症状や治療・リハビリ、後遺障害等級、損害賠償請求とのかかわり等、脊髄損傷全般に関する詳しいことは以下のページで解説いたしておりますので、こちらも合わせてご覧ください。

●学校事故における脊髄損傷に関する解説についてはこちらのページから。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。