脊髄の障害
脊髄損傷(頚髄損傷・胸髄損傷・腰髄損傷etc)と後遺症【学校事故専門弁護士解説】
はじめに
学校は、子どもたちが、授業や活動を通して、多くの経験を積む場です。
また、教員などの大人との接したり、同級生や上級生、下級生と様々な年齢の人たちとのかかわりがある場でもあります。
そうしたなかで、お子さんが、授業中や部活動中、課外指導中など、学校の管理下における事故によって脊髄損傷を負った場合、どうしたらよいでしょうか。
本稿では、学校事故による脊髄損傷について整理しております。
そもそも脊髄損傷とは何か、脊髄損傷を負うとどのような症状が現れるのか。
そして後遺障害が残ってしまった場合にはどのような補償が受けられるのか、損害賠償請求との関係は。
事故後からの流れも合わせて、学校事故被害者専門弁護士がご説明いたします。
脊髄損傷とは
「脊髄」とは、簡単に言うと「人間の背中に通っている大きな神経」であり、脳から下に垂れるような形で存在しています。
脊髄は、運動神経・感覚神経・自律神経の伝達機能を始めとした、非常に重要な役割を果たす部位であることから、簡単に傷ついてしまったりしないように、背骨によって守られています(背骨を構成している骨である「脊椎」にトンネルがあり、そのトンネル内を脊髄が通っているようなイメージ)。
よく似た言葉である「脊椎」と「脊髄」の違いについてはこちらのページから。
脊髄損傷は、この大きな神経を物理的な外力等により損傷することをいいます。
たとえば、ラグビーの部活動でのタックル練習で、受ける側が身構える前に真正面からタックルされたケースを考えてみます。
このとき、受ける側の人間には、正面から急激な外力が加わることになり、その体は、くの字のように折れ曲がります。体は外力によって無理やり、物理的な限界を無視するように屈曲させられた状態(過屈曲)となるため、脊椎や脊髄にも大きなダメージが入ります。
脊椎の骨折を伴い、脊髄自体が損傷したり断裂したりすることもあれば、外力により脊椎が背骨から抜け出るように脱臼してしまい、これに伴よって脊髄損傷を負うこともあります。
また脊椎の骨折がなくとも、その後よろめいて後ろに倒れこんでしまったりした際に背中を強く打ちつけることによって脊髄を損傷・出血してしまったり、脊髄を保護する硬膜の内外に血種が生じて脊髄を圧迫してしまう恐れもあります。
さて、ひとくちに「脊髄損傷」といってもその症状の態様は複雑であり、損傷高位や横断面における損傷の程度などの基準に基づき分類されることが多いです。
実際に診断書に記載される傷病名としては、具体的な負傷状況が分からない段階では「脊髄損傷」となることもありますし、損傷高位が判明すれば、「頚髄損傷(頸髄損傷)」、「胸髄損傷」、「腰髄損傷」、「仙髄損傷」、「馬尾神経損傷」といったかたちで記載されることもあるでしょう。
脊髄損傷の分類
前項で少し触れましたが、脊髄損傷は、損傷高位や脊髄横断面における損傷範囲によって分類がなされており、損傷パターンによって現れる症状やその程度が異なってきます。この項では、各分類について説明いたします。
⑴損傷高位による分類
脊髄はその位置によって頚髄(頸髄)、胸髄、腰髄、仙髄に分けられます。脊髄の下端部は第1腰椎・第2腰椎あたりで終わり、それ以下に馬尾神経が下がるような構造になっています。このことから、損傷した高位に応じて、「頚髄損傷(頸髄損傷)」、「胸髄損傷」、「腰髄損傷」、「仙髄損傷」と分類することができます。
「頚髄」と「頸髄」で漢字が違うが、意味も異なる?ふとした疑問についてこちらのページで解説。
損傷したときに生じる症状も損傷高位に応じて異なっており、一般的には損傷高位が高いほど(頭に近いほど)重篤な症状を発症する傾向にあります。
頚髄損傷が最も重篤で致命的な症状が現れることが多く、損傷の程度によっては死に至る可能性もあります。
次いで胸髄損傷が重い症状が現れることとなり、頚髄損傷とともに、下半身の対麻痺がみられることがあります。
腰髄損傷でも下半身麻痺が生じることがありますが、頚髄損傷や胸髄損傷と比べると、比較的症状は軽い傾向にあります。
そして仙髄損傷では、排尿障害などが生じる可能性があります。
頚髄損傷(頸髄損傷)、胸髄損傷、腰髄損傷については、以下のページで詳細を解説しております。
⑵横断面の損傷範囲による分類
脊髄損傷は、損傷の程度によって「完全損傷」と「不完全損傷」に分けられます。
完全損傷は横断面全体が損傷されたケースで、脊髄が横断的に断裂している状態であり、完全麻痺や感覚消失を発症します。
他方、不完全損傷は横断面の一部が損傷されたケースとなり、その態様によって更に「前部脊髄損傷」、「後部脊髄損傷」、「脊髄半側損傷(ブラウン・セカール型損傷)」、「中心性脊髄損傷」の4つの損傷パターンに類型化することができます。
そして脊髄内の神経伝達経路の構造上、損傷パターンに応じて、現れる症状や症状が出る部位などが異なることがあり、症状の現れ方が多彩になることが多いです。また、脊髄損傷様の症状は現れているものの、所見としては不十分という場合にも、不完全損傷の傷病名が診断されることがあります。
前部脊髄損傷、後部脊髄損傷、脊髄半側損傷、中心性脊髄損傷と感覚障害の関係についてはこちらで詳しく解説
脊髄損傷の症状
脊髄は頚髄、胸髄、腰髄、仙髄に大きく分けられることは説明しましたね。
これらについて、更に高位(レベル)が決められており、頚髄は第1頚髄~第8頚髄(C1~C8)、胸髄は第1胸髄~第12胸髄(T1~T12)、腰髄は第1腰髄~第5腰髄(L1~L5)、仙髄は第1仙髄~第5仙髄(S1~S5)と呼ばれています。
各髄節からは特定の位置に神経が伸びていることから、損傷した高位(レベル)によって現れる症状は異なってきます。
そして、脊髄損傷は一般に、損傷した高位(レベル)から下方の脊髄の神経が司る部位の機能が消失したり、障害が生じることになります。
ここでは、症状について一覧的にまとめております。
⑴運動神経障害(運動麻痺)
脊髄損傷により、上肢や下肢に運動麻痺が生じます。
人間が体を動かそうとするとき、脳から脊髄を通して運動機能の信号が各部に送られます。
いわば、脊髄は運動機能に関する信号の神経伝達経路なのです。
しかし、脊髄損傷によってこの神経伝達経路に障害が生じてしまい、身体に上手く信号が届かなくなってしまいます。
運動麻痺は発生部位に応じて呼び方が異なっており、人間の体を大まかに上肢・下肢、左半身・右半身の4つのエリアに分けて考えます。
図中における①~④のすべての部位に運動麻痺が生じているものを四肢麻痺、両上肢(①&②)または両下肢(③&④)にのみ麻痺が生じているものを対麻痺、左上下肢(①&③)もしくは右上下肢(②&④)にのみ麻痺が生じているものを片麻痺、①~④のいずれか1か所にのみ麻痺が生じているものを単麻痺といいます。
Q.「下半身不随」と「下半身麻痺」の違いって何? → A.こちらのページで解説しております。
⑵感覚神経障害
皮膚組織で感じ取る温冷覚や痛覚といった表在感覚や、骨や筋組織等の内部組織で感じ取る位置覚や振動覚といった深部感覚について、感覚消失や感覚鈍麻が生じます。
感覚障害が現れる部位については、脊髄の損傷高位や、脊髄横断面における損傷範囲によって異なっており、多彩な症状が現れる傾向にあります。
⑶呼吸障害
頚髄損傷を負った場合によく見られ、自発的呼吸が困難となります。
損傷高位によっては重度の呼吸障害が現れ、呼吸停止となり死亡に至る可能性もあります。
⑷神経因性膀胱障害(蓄尿障害・排尿障害)
尿意を感知することや、自力で尿を排出することができなくなってしまい、そのため膀胱に尿を溜めきれずあふれて失禁してしまうといった排尿障害・蓄尿障害が現れます。
膀胱尿管逆流を併発することもあり、その場合尿路感染症などの二次的な感染症を引き起こす恐れもあります。
⑸自律神経障害(交感神経遮断に付随する症状)
交感神経の中枢が胸髄の上位から腰髄にかけて存在するため、頚髄や上位胸髄を損傷することにより、交感神経が障害されます。
交感神経が障害されると、体温、血圧等の調節や代謝などが正常に行われなくなります。
他方、副交感神経は延髄から迷走神経を通って各胸腹部臓器に分布するつくりとなっているため、副交感神経は障害されません。
⑹反射の異常
熱いやかんに手を触れた時に、意識とは関係なく手を引く動作をとるように、こうした反射が起こるときには、通常、過剰に反射が起こらないように制御がなされています。
しかし、脊髄損傷を負った場合には、この制御が上手く働かなくなり、過剰に反射反応が現れる(これを反射亢進といいます)ことになります。
また損傷の状況によっては、反射の減弱や滅失が見られることもあります。
⑺神経症状
神経の構造について、中枢神経である脊髄から神経根が伸び出て、体の各組織に末梢神経を巡らせているようなかたちになっています。
脊髄の損傷とともに脊椎を骨折したり、血種等が生じることによって神経根が圧迫される場合には、障害されている神経根が伸びだしている髄節支配領域に応じた範囲に疼痛やしびれ等の神経症状が現れることがあります。
脊髄損傷では、以上のような症状が現れることが多いです。
注意する点としては、脊髄損傷の損傷高位や損傷の程度によって、症状の重さの程度が異なってくることです。
例えば運動麻痺ですが、
頚髄損傷の場合、上下肢すべてに麻痺が生じる四肢麻痺になることが多いですが、腰髄損傷の場合には上下肢に麻痺が生じることはなく、専ら下肢に対麻痺や単麻痺が生じることとなります。なぜならば、上肢の運動機能に関する神経伝達経路は頚髄の部分から伸びている一方、下肢の運動機能に関する神経伝達経路は腰髄の部分から伸びているからです。
脊髄損傷は、損傷高位以下に障害が生じるものなので、頚髄損傷の場合には上下肢両方の運動機能の神経伝達経路が障害され、他方で胸髄損傷や腰髄損傷では上肢運動機能の神経伝達経路は障害されず、下肢運動機能の神経伝達経路のみが障害されることになります。
頚髄損傷、胸髄損傷、腰髄損傷それぞれで生じうる症状については、以下のページをご覧ください。
頚髄損傷(頸髄損傷)の症状や後遺障害についてはこちらで詳しく解説
ここでもう一点注意するポイントがあり、中心性脊髄損傷の場合には、やや異なる症状を呈することがあります。
中心性脊髄損傷の中でも、とりわけ起きやすいとされているのが中心性頚髄損傷ですが、これを負傷した場合、通常の頚髄損傷とは異なり下肢よりも上肢に運動麻痺の障害が強く現れる傾向があります。
脊髄損傷の治療・リハビリ
脊髄損傷の治療・リハビリについては、以下のページで詳しく解説いたしております。
脊髄損傷|どんなリハビリを行う?歩けるようになるの?後遺障害はどうなる?【弁護士解説】
治療・リハビリの大まかな流れは、急性期と回復期とで分かれます。
事故直後である急性期には、画像検査や腱反射、筋力テスト等の神経学的評価に基づき脊髄損傷の状態や症状を迅速に確認し、リハビリの目標設定がなされます。
目標に向けて座位訓練や上下肢の可動域訓練を行い、日常生活動作(ADL)機能の低下を防ぎ、また呼吸障害が現れている場合には呼吸理学療法も並行していきます。
回復期には、急性期のリハビリにより回復した機能を活用しつつ、日常生活や社会生活への復帰を力点にリハビリを継続していきます。
起立訓練や歩行訓練をはじめ、車椅子駆動訓練なども行い、鈍化した感覚機能の再獲得や体幹支持機能の強化も進めていきます。
脊髄損傷の画像検査
学校の管理下における事故により脊髄損傷を負った場合、画像検査が行われ、損傷の状況を確認されるでしょう。
実際にどのような画像が撮影されるのかについては、以下のページで詳しく解説いたしております。
脊髄損傷|ポイントとなる画像はあの3つ⁉【学校事故被害者専門弁護士】
ここでは、画像の種類や特徴について、概要を説明いたします。
画像とひとくちに行っても様々なものがありますが、一般的には、XP、CT、MRIが実施されることが多いです。
XPは、「X線写真撮影」のことをいい、一般に「レントゲン写真」と呼ばれているものです。
XPでは、骨や臓器の状態を確認するために撮影されることが多いです。
ただし、XPは古くから行われている検査であり、検査時間が短くて済む反面、平面的に撮影されるものであることから得られる情報が少ないため、とりわけ脊髄損傷においてはXPのみで損傷の状態を正確に判断することが非常に難しいです。
そこで、体の状態を立体的に把握することができるCT(コンピュータ断層撮影)検査を行うことがあります。
そして、さらに多くの情報を得られる検査として、MRI(磁気共鳴断層撮影)検査があります。
XPやCTでは描出できない体の組織の状態も分かり、脊髄損傷の状態をより確認できるようになってきています(もちろん、全てを画像として描出し確認できるわけではなく、MRIにも限界はあります)。
他方、撮影時間が長く撮影中はじっとしておく必要がある、金属等が体に入っていると検査が出来ないといった制限があります。
また、MRI検査が出来ない場合は、脊髄造影検査(ミエログラフィー)など実施可能な他の検査が行われることがあります。
最近では、体に金属が入っている(ペースメーカー埋込術をした等)場合でもMRI検査が出来ることがありますので、ご自身の状況については主治医に確認しておくのがよいと思います。
脊髄損傷の後遺障害等級について
前述のとおり、脊髄が損傷された場合、四肢麻痺や対麻痺(下半身麻痺)が現れる可能性があり、それとともに感覚障害や尿路障害(神経因性膀胱障害)などの腹部臓器の障害が通常認められます。また、脊柱の変形や運動障害がみられることもあります。
このように、脊髄損傷では複雑な諸症状を呈する場合が多いですが、脊髄損傷が生じた場合の等級の認定は、原則として、身体的所見、関節の可動域制限や徒手筋力の程度及びMRI・CT等によって裏付けることのできる麻痺の範囲と程度、そして介護の要否及び程度により障害等級を認定していきます。
授業中や部活動中、また課外指導中などの学校の管理下で起こった事故や、登下校中の事故により脊髄を損傷し、治療を続けたが後遺症が残ってしまった場合、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度に定められている障害見舞金の支払の請求ができることがあります。脊髄損傷の場合に認定される可能性がある後遺障害等級は、主に以下のとおりとなります。
なお、等級認定された場合に支給される障害見舞金の金額は、障害が生じた時点が平成31年3月31日以前であるか同年4月1日以降であるかによって異なります。本稿では、平成31年4月1日以降の金額にて記載しておりますのでご注意ください。
第1級の3
「せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」は、第1級の3が認定されます。支給される障害見舞金は4000万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は2000万円)となります。
同等級が認定されるのは、以下の4つの場合です。
①高度の四肢麻痺が認められるもの
②高度の対麻痺が認められるもの
③中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
④中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
第2級の3
「せき髄症状のため、生命の維持に必要な身のまわり処理の動作について随時介護を要するもの」は、第2級の3が認定されます。支給される障害見舞金は3600万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は1800万円)となります。
同等級が認定されるのは、以下の3つの場合です。
①中等度の四肢麻痺が認められるもの
②軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
③中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
第3級の3
「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、せき髄症状のために学校生活に著しい制限を受けているもの」は、第3級の3が認定されます。支給される障害見舞金は3140万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は1570万円)となります。
同等級が認定されるのは、以下の2つの場合です。
①軽度の四肢麻痺が認められるもの(第2級の3②に該当するものを除く。)
②中等度の対麻痺が認められるもの(第1級の3④又は第2級の3③に該当するものを除く。)
第5級の2
「せき髄症状のため、学校生活に制限を受けており、極めて軽易な活動しか行うことができないもの」は、第5級の2が認定されます。支給される障害見舞金は1820万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は910万円)となります。
同等級が認定されるのは、以下の2つの場合です。
①軽度の対麻痺が認められるもの
②一下肢の高度の単麻痺が認められるもの
第7級の4
「せき髄症状のため、学校生活に制限を受けており、軽易な活動しか行うことができないもの」は、第7級の4が認定されます。支給される障害見舞金は1270万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は635万円)となります。
同等級が認定されるのは、一下肢の中等度の単麻痺が認められるものが該当します。
第9級の10
「通常の学校生活を送ることはできるが、せき髄症状のため、参加可能な活動が相当程度に制限されるもの」は、第9級の10が認定されます。支給される障害見舞金は590万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は295万円)となります。
同等級が認定されるのは、一下肢の軽度の単麻痺が認められるものが該当します。
第12級の13
「通常の学校生活を送ることはできるが、せき髄症状のため、多少の障害を残すもの」は、第12級の13が認定されます。支給される障害見舞金は225万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は112万5000円)となります。
同等級が認定されるのは、運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺(軽微な随意運動の障害又は軽度の筋緊張の亢進が認められるもの)を残すものが該当します。また、運動障害は認められないものの、広範囲(概ね一上肢又は一下肢の全域)にわたる感覚障害が認められるものも該当します。
どんなものを損害賠償できるのか?
一般的に学校事故によって損害が生じた場合には、以下のようなものを請求することができます。(※がついている費目は日本スポーツ振興センターの障害見舞金支払請求において後遺障害等級が認定された場合)
・治療費
・入院に際して負担した入院雑費
・通院に際して要した通院交通費
・治療のために仕事を休まざるを得なかった際の休業損害
・後遺障害の逸失利益※
・傷害慰謝料(入通院慰謝料)
・後遺症慰謝料※
これらに加えて、脊髄損傷によって四肢麻痺や呼吸障害等の重篤な後遺障害を残すに至った場合には、更に以下のような費目を請求できる可能性があります。
⑴症状固定後の治療費
一般的に、損害賠償請求における治療費は、症状固定日までに要した金額しか請求できないことが多いですが、残存している症状の内容や程度等の具体的な事情を考慮し、支出が相当であると認められる場合に、症状固定後に要した治療費も損害として認定されることがあります。
脊髄損傷の場合、症状固定を迎えた後も定期的な治療やリハビリなどが必要になる可能性がありますので、その治療費を請求できる可能性があります。
⑵将来治療費
残存している症状の内容や程度等の諸般の事情を考慮した上で、将来治療の必要性や相当性が認められる場合に、損害として認定される傾向があります。
症状固定後の治療費と同様に、通常、損害賠償請求では認められないことが多いですが、脊髄損傷の後遺症の内容や程度等を勘案して、将来的にも治療費の負担が考えられる場合には認定されることがあります。
⑶付添看護費用
付添看護費用は、入院付添費・通院付添費・自宅付添費があります。
入院付添費は、医師の指示又は受傷の程度、被害者の年齢等より必要性が認められれば、職業付添人については実費全額、近親者付添人は1日につき6500円が被害者本人の損害として認定されることが多いです。
通院付添費は、症状又は幼児等付添が必要と認められる場合に、被害者本人の損害として肯定され、一般的に1日3300円で算定されることが多いです。
自宅付添費は、症状や被害者の年齢等から、自宅において近親者や職業付添人の付添が必要かつ相当であると認められる場合に認定される傾向があります。
たとえば脊髄損傷の後遺症で四肢麻痺が残り、家族が日頃から介助をしなければならなくなったような場合などに認められる可能性があります。
⑷将来介護費
医師の指示又は症状の程度により必要性が認められれば被害者本人の損害として認定されます。この時、金額は、職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円で算定されることが多いです。なお、訴訟中に被害者が死亡した場合には、死亡以降の介護は不要になるため、死亡後の介護費用は損害として認められません。
・福岡高判平成22年1月26日(自保ジ1824・55)
重度痙性四肢麻痺等(別表第一第1級1号)の男児(症状固定時7歳)につき、施設に入所中であるが、自宅介護の準備をしており、自宅介護が可能であるとして、母が67歳までは近親者介護料として週1日分8000円、職業介護人と近親者による週6日の介護料として日額2万円、母67歳以降は職業介護料として日額2万円、平均余命まで合計1億3227万円余を認めた。
⑸将来の通院交通費
将来的にも通院する必要性や相当性が認められる場合に、損害として認定されると考えられます。
・神戸地判平成20年7月1日(自保ジ1813・69)
両下肢完全麻痺、排尿障害等(別表第一第1級1号)の男性(症状固定時51歳)につき、症状固定後の定期的な経過観察のためのタクシーによる通院交通費として1か月ごとの通院1回につき往復6800円、平均余命28年間、合計121万円を認めた。
⑹装具・器具等購入費
車椅子や介護支援ベッド等、必要性が認められる場合に損害として認定される傾向にあります。
たとえば脊髄損傷の後遺症で重度の下肢の対麻痺が残り、車椅子での移動を余儀なくされた場合の車椅子費用などが考えられます。
⑺家屋・自動車等改造費
被害者の受傷の内容、後遺症の程度及び内容を具体的に検討し、必要性が認められる場合に、相当額が損害として認定されます。判例上、浴室やトイレ、玄関等の出入口、エレベーター、自動車の改造費等が認定されています。なお、家屋改造等により被害者以外の家族の利便性が向上すると認められる場合には、反射的利益に過ぎないとして減額がなされないこともあれば、割合で減額がなされる可能性もあります。
⑻父母の休業損害
たとえば、小学生のお子さんが脊髄損傷を負い入院や通院をしなければならなくなった場合に、ご両親が付添をされる可能性もあるかと思います。付添をする際に、仕事を休まざるをえなかったり、または有給休暇を使用せざるを得なかったようなときには、それを休業損害として請求できる可能性があります。
なお、実際にどのような損害を請求することができるかについては、具体的なご事情によっても異なってくるところがありますので、お悩みの場合は一度弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
「誰」に損害賠償請求できる?
一般的な交通事故の場合、損害賠償の請求先はふつう事故の相手方であり、分かりやすいかと思います。
一方、学校の管理下における事故の場合、「自転車で下校中に転倒して怪我をした」のように加害者が存在しないこともあれば、「教員からの体罰などで怪我をした」ような加害者が教員のことも、あるいは「昼休みに友達と球技をしていてボールを顔にぶつけられ怪我をした」といった加害者が児童・生徒のときもありますから、誰に損害賠償を請求したらいいものかよくわからないこともあるでしょう。
ここでは、誰に賠償請求できるのかについて、法的根拠と合わせて説明いたします。
⑴学校
学校が国公立学校であるか私立学校であるかによって分けて考える必要があります。
①国公立学校の場合
国公立学校における学校事故での損害賠償請求の法的根拠は、国家賠償法になります。
国公立学校の教職員による加害等の不法行為により児童や生徒に損害が生じた場合には、国家賠償法1条1項に基づき、国や市町村などの公共団体に対して損害賠償請求をすることになります。なお、不法行為を行った教職員個人への損害賠償請求を行うことはできません。
また、学校の施設の瑕疵によって怪我をしたような場合は、国家賠償法2条1項に基づき、同じく国または公共団体に対して損害賠償請求することとなります。
②私立学校の場合
私立学校における学校事故での損害賠償請求の法的根拠は、民法になります。
私立学校の教職員による加害等の不法行為により児童や生徒に損害が生じた場合には、民法709条に基づき、基本的には教職員個人に対して損害賠償請求をすることになります。また、民法715条に基づき、加害教職員を雇用している学校や、加害教職員を指導する立場にある者(校長など)に対して損害賠償請求をすることもできます。更に、一般的に学校には、学校生活の中で生じる危険などから児童や生徒の生命・身体等を保護し、安全に配慮すべき義務(安全配慮義務といいます)があることから、民法415条に基づき、安全配慮義務違反という債務不履行を理由として、私立学校に対して損害賠償請求をすることができます。
生徒が喧嘩して怪我をしたような場合には、民法714条1項に基づき、責任無能力者である生徒たちを監督する法的義務を負う監督義務者である教職員個人に対して損害賠償請求を行うことができます。
また、私立学校の施設の設置及び保存の瑕疵によって児童や生徒に損害が与えられた場合には、民法717条に基づき、私立学校に対して土地工作物責任を追及し、損害賠償請求をすることができます。
⑵加害生徒
①加害生徒が責任能力を有する場合
民法の条文上では、何歳から責任能力を有するかについての記載は見られませんが、判例の傾向からすると、概ね小学校卒業程度の年齢(13歳以上程度)だと責任能力を有すると考えることができます。
そのため、例えば中学校や高校で生徒が別の生徒を暴行し、被害生徒に損害が生じた場合には、被害生徒は、加害生徒本人に損害賠償請求をすることができます。
②加害生徒が責任能力を有しない場合
加害生徒が責任能力を有しない場合(小学校低学年など)は、加害生徒本人に損害賠償はできません。この場合、民法714条に基づき、加害生徒の監督義務者である加害生徒の法定代理人(基本的には親権者であることが多いです。)に損害賠償請求をすることとなります。
おわりに
スポーツ振興センターにきちんと後遺症の状態を認識してもらい、適切な後遺障害等級審査を行ってもらうためには、
障害見舞金支払を申請する際に必要な後遺障害診断書に、症状や医学的所見をもれなく医師に書いてもらったり、後遺障害診断書に加えてさまざまな書類を準備したり、医学的に後遺症を証明するような所見を得るために必要な検査を受けたりと、重要なポイントが数多くあります。
したがって、障害見舞金支払の申請をする段階から、等級獲得に向けて押さえるべきポイントを把握したうえで用意をしていくことが望ましく、そのためには後遺障害に関する経験や専門的知識が不可欠といえます。
また、損害賠償請求についても、
適切に損害を把握し、相手方に請求を行うにあたっては、法律や裁判例の知識が欠かせません。
弁護士法人小杉法律事務所では、学校事故被害者専門弁護士による無料相談を実施しております。
部活動で脊髄損傷を負ってしまい下半身不随が残ったがこれからどうしたらいいのか…
自分の子どもの場合は何を請求できるのか…
お悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。