脊髄損傷
脊髄損傷|損傷高位と症状には関係がある⁉【学校事故被害者専門弁護士解説】
2024.05.17
脊髄は人間の中枢神経の一つで、運動神経や感覚神経、自律神経等に関する脳と体の各部分との信号伝達経路の役割を担っており、生命維持にも大きな影響を持っています。
そんな脊髄を損傷すると、運動麻痺や感覚障害、自律神経障害、反射異常などの様々な症状が生じることになりますが、
現れる症状や、症状の重さは、実は損傷高位(レベル)によって異なってきます。
本稿では、脊髄損傷により現れる症状と、損傷高位との関係について解説いたします。
下表で大まかに関係性を整理しておりますので、そちらもご覧いただきつつ読み進めていただけると、より分かりやすいのではないかと思います。
表は、横列に脊髄の高位(レベル)を、縦列に主要な症状及び現れる反射異常をまとめた形になります。
表における○、△、×印の意味合いは以下のとおりです。
○:症状が現れる可能性が高い
△:症状が現れる可能性がある
×:症状が現れる可能性がない
なお、これはあくまでこれまでの脊髄損傷の症例の累積からみられる傾向を示したものです。脊髄損傷は、往々にして事故態様も大きい傾向があるため、胸腹部の臓器や体幹骨の骨折などその他の負傷を伴うこともあり、それらも相まって多彩な症状が現れるケースも散見されます。
頚髄損傷(頸髄損傷)の症状
脊髄の中でも首付近にあたる部分である頚髄(頸髄)を損傷した場合について、表の「頚髄(C1~C8)」の行を見てみましょう。
一般に脊髄損傷を負った場合、損傷高位以下の部位に障害が現れます。
すなわち頚髄損傷の場合には上肢・体幹・下肢と広い範囲に障害が現れ、その症状は重篤になる可能性が非常に高くなります。
とりわけ損傷高位が頭部に近ければ近い(高位の数字が小さい)と、命にかかわることすらあります。
運動麻痺は上肢・体幹・下肢と全身に現れ、多くの場合、四肢麻痺になります。特にC1~C4で損傷した場合には完全麻痺となって体を全く動かせなくなる可能性もあります。
温冷覚や痛覚、振動覚といった感覚障害についても、麻痺と同様に上肢・体幹・下肢に広く現れます。
また、頚髄損傷の場合、呼吸障害を併発することが多く、呼吸不全になったり、最悪の場合には呼吸停止する恐れがあります。
排尿や蓄尿に係る神経伝達も阻害されることになるため、神経因性膀胱障害(排尿障害・蓄尿障害)も多く見られます。症状の程度によっては、自力での排尿ができなくなることもあります。排便についても同様であり、排便障害が現れるケースが多いです。
加えて交感神経が遮断されることによって副交感神経優位となるため、自律神経のバランスが乱れ、体温調節や代謝などが上手く行えなくなる自律神経障害が現れます。
そして、損傷高位以下の部位における腱反射について、運動神経の伝導が上手くできなくなることによって亢進することとなります。
頚髄損傷の場合には、損傷高位にもよりますが、上腕二頭筋反射、上腕三頭筋反射、橈骨反射、膝蓋腱反射、アキレス腱反射につき亢進の所見が見られることが多いです。
胸髄損傷の症状
脊髄は、髄節ごとに支配領域があり、損傷高位以下の髄節の支配領域に症状が現れることとなります。
上肢の大部分を支配領域に含むのは頚髄であることから、胸髄損傷の場合には、上肢に運動麻痺や感覚障害が現れるケースはあまり多くは見られません(ただし、T1は上肢の一部分を支配領域に含むため、運動麻痺や感覚障害が現れる可能性があります)。
すなわち、胸髄損傷の場合に運動麻痺や感覚障害が現れるのは主に体幹と下肢になります。とりわけ下肢については非常に高い可能性で麻痺が生じるものといえます。
体幹については、損傷高位によってその範囲が異なり、
損傷高位がT1~T4あたりの場合、胸元以下や背部~腰部といった広い範囲に、
損傷高位がT5~T8あたりになると、胸郭~胸郭下口より下や背部真ん中から下~腰部の範囲に、
そして損傷高位がT9~T12あたりの時は、おへそ以下や腰部の範囲に運動麻痺や感覚鈍・消失が生じる傾向にあります。
また、呼吸機能を司る神経は主に頚髄の支配領域であるため、通常、胸髄損傷の場合には呼吸障害はあまり多くは見られません。
神経因性膀胱障害や排便障害は、胸髄損傷の場合でも現れる可能性があります。
自律神経障害は、損傷高位がT1~T2といった胸椎の上方である場合には生じることがあり、T3以下が損傷高位の場合には全く発生しないとは言い切れませんが可能性はあまり高くないものといえます。
腱反射については、上肢である上腕二頭筋・上腕三頭筋・橈骨には反射異常は見られず、膝蓋腱反射やアキレス腱反射について亢進が見られることが多いです。
腰髄損傷の症状
胸髄の髄節支配領域が主に体幹であることから、腰髄損傷となると、症状が現れる範囲は主に下肢になります。
運動麻痺や感覚障害が下肢に現れ、やはり神経因性膀胱障害や排便障害を併発することが多いです。
他方、腰髄損傷を原因として呼吸障害や自律神経障害が生じることは基本的にはないと考えてよいでしょう。
腱反射については、損傷高位がL1~L5いずれであってもアキレス腱反射亢進が見られ、膝蓋腱反射の亢進もL5を除いて現れることが多いです。
おわりに
本稿では、脊髄損傷の症状について損傷高位との観点から説明いたしました。
傾向として、損傷高位が高いほど併発する症状は多くなり、またその症状も重篤になりやすいといえます。
なお、脊髄損傷の症状の程度は損傷の大きさによって異なり、たとえば脊髄損傷が軽度であれば不全麻痺になることが多い一方、損傷が重度である場合には完全麻痺になる恐れが高まります。
また、運動麻痺や感覚障害が生じる範囲も、厳密には損傷の大きさや態様によって異なってきます。軽度の損傷の場合は一下肢にのみ麻痺や感覚障害が現れたりしますが、重度の損傷ですと両下肢に麻痺が生じてしまうこともあります。
学校管理下における事故(学校事故)で脊髄損傷を負った場合の損害賠償請求や後遺障害、その他症状や治療・リハビリ等については以下のページで解説いたしておりますので、そちらも合わせてご覧ください。
●脊髄損傷全般の解説や、その他脊髄損傷に関する記事についてはこちらから。
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