学校事故コラム

損害論

脊髄損傷

脊髄損傷|治療・リハビリの末後遺症が…後遺障害や損害賠償請求について学校事故専門弁護士が解説!

2024.02.16

授業中や部活動中、登下校中などの学校事故で脊髄損傷を負った場合、体に麻痺の症状や神経因性膀胱障害、損傷した箇所によっては更に呼吸障害等の症状が現れます。

そして、これらの症状が後遺症として残らないよう、少しでも回復するために、種々のリハビリテーションが行われます。

本稿では、学校事故で脊髄損傷を負ってから、治療・リハビリの施行、後遺症が残存した場合の後遺障害、そして損害賠償請求について解説していきます。

1.脊髄損傷とは

脊髄損傷とは、外傷によって脊髄を損傷することをいいます。

ひとくちに脊髄損傷といっても、その態様はさまざまであることから、損傷箇所や損傷の程度、その状況等によりいくつかの分類がなされています。

⑴損傷箇所による分類

一つ目に、損傷箇所による分類方法があります。

脊髄はその高さによって頚髄(頸髄)、胸髄、腰髄、仙髄に大きく区分され、脊髄の下端部は第1腰椎・第2腰椎あたりで終わり、それ以下に馬尾神経があるという構造になっています。このことから損傷した高位に応じて、頚髄損傷(頸髄損傷)胸髄損傷腰髄損傷仙髄損傷馬尾神経損傷と分類することができます。

損傷したときに生じる症状も損傷高位に応じて大きく異なり、一般に、損傷高位が高ければ高いほど重篤な症状を発症する傾向にあります。頚髄損傷が最も重篤で致命的な症状が現れることが多く、四肢麻痺や呼吸障害などが多く見られます。そして、損傷の程度によっては死に至る可能性もあります。次いで胸髄損傷が重い症状が現れることとなり、下半身の対麻痺になることが多いです。腰髄損傷でも下半身麻痺が生じることがありますが、頚髄損傷や胸髄損傷と比べると、比較的症状は軽い傾向にあります。仙髄損傷では下肢麻痺や運動障害が生じることはほぼありませんが、馬尾神経損傷の場合には、下肢の運動障害が生じることがあります。

頚髄損傷(頸髄損傷)、胸髄損傷、腰髄損傷それぞれの症状や後遺症、後遺障害については、以下のページで詳細を解説しております。

頚髄損傷(頸髄損傷)・胸髄損傷・腰髄損傷の症状や後遺障害についてはこちらで詳しく解説

⑵損傷の程度による分類

損傷の程度による分類とは、脊髄を水平方向に輪切りした断面(横断面)を見た時の損傷の大きさによって分類することをいい、損傷の程度により現れる症状の重さが変わってくることとなります。

まず、横断面全体を損傷している完全損傷(横断性損傷)と、横断面の一部の損傷に留まる不完全損傷の大きく二つに分けられます。不完全損傷については、横断面のどの部分を損傷したかによって、前部脊髄損傷後部脊髄損傷脊髄半側損傷(ブラウン・セカール型損傷)中心性脊髄損傷の四つのパターンに分類されます。

中心性脊髄損傷の症状や後遺障害についてはこちらで詳しく解説

⑶損傷状況による分類

脊髄は、それを保護する骨である脊椎(一般的に背骨と呼ばれる部位)の中を通るように位置していますが、この脊椎の損傷を伴うような脊髄損傷の場合には骨傷性脊髄損傷といい、伴わない場合は非骨傷性脊髄損傷と呼ばれます。

2.脊髄損傷の症状

脊髄は中枢神経の一部分であり、脊髄から手足や体の各部位に末梢神経という細かい神経がのびています。そして、例えば手足を動かすなどの運動神経に関わる脳からの信号が脊髄を経由して末梢神経に送られることにより、人間は手足を動かすことができます。また、皮膚などにある感覚神経で感じ取った「熱さ」や「痛み」などの刺激が、末梢神経から信号として脊髄を経由して脳に送られることで、人間は「熱い」、「痛い」と知覚することができます。

こうした信号のやり取りにおける重要な経路である脊髄が損傷されると、脳と身体各部との連絡のやり取りに支障が生じてしまうため、様々な症状が現れます。

⑴麻痺(運動神経障害)

脊髄損傷によって脳からの運動神経の信号が手足に届きにくくなる(届かなくなる)ことにより、上下肢に麻痺が生じます

麻痺には程度によって分類があり、完全に上肢や下肢を意識的に動かせなくなることを完全麻痺、そうでないものを不全麻痺といいます。

また、発生部位に応じて呼び方が異なっており、上肢・下肢、左半身・右半身の四分割でイメージした場合に、両上下肢すべてに麻痺が生じているものを四肢麻痺、両上肢もしくは両下肢に麻痺が生じているものを対麻痺、左上下肢もしくは右上下肢に麻痺が生じているときは片麻痺、いずれか一か所にのみ麻痺が生じているときは単麻痺と呼ばれます。脊髄損傷の場合にみられることの多い下半身不随(下半身麻痺)は、すなわち下肢の対麻痺のことです。

⑵感覚障害

温冷覚や痛覚といった皮膚組織で感じ取る表在感覚や、位置覚や振動覚といった骨や筋組織などで感じ取る深部感覚について、感覚の鈍麻・脱失が生じます。感覚障害が生じる部位については、脊髄の損傷高位や、脊髄横断面における損傷範囲によって異なってきます。同一部位に表在感覚障害と深部感覚障害の両方が現れることもあれば、一方の感覚障害のみが現れたり、あるいは右足には表在感覚障害が現れて左足には深部感覚障害が現れるなど、複雑な様相を呈することもあります。

⑶呼吸障害

自発的呼吸が困難となる呼吸障害は、頚髄損傷を負った場合に多く見られます。呼吸に関わる器官である横隔膜に信号を送る神経が第3頚髄~第5頚髄(一般にC3~C5と呼ばれます)からのびていることから、頚髄損傷した場合には呼吸障害が生じることとなります。とりわけC5以上のレベルで損傷したときは自発的呼吸が非常に難しくなり、重度の場合には呼吸停止となり、死に至る可能性もあります。

⑷排尿障害(神経因性膀胱障害)

排尿や蓄尿に関わる膀胱や陰部などの下部尿路機能を制御する中枢・末梢神経系は、第11胸髄~第2腰髄(T11~L2)や第2仙髄~第4仙髄(S2~S4)の髄節支配領域であることから、これらより高位において脊髄損傷を負った場合には、排尿障害・蓄尿障害が生じます。具体的には、尿意を感知することや、自力で尿を排出することができなくなったり、膀胱に尿を溜めきれずにあふれて失禁してしまったり(溢流性尿失禁)、膀胱尿管逆流などの症状が現れます。自力での排尿ができないために、尿路感染症などの二次的な感染症のリスクも伴います。

⑸自律神経障害

脊髄損傷により、交感神経・副交感神経といった自律神経系も障害されることになり、自律神経の機能である体温、血圧等の調節や代謝などが正常に行われなくなります。具体的な症状としては、発汗障害や起立性低血圧、高血圧、頭痛などが見られます。

⑹反射亢進または反射減弱・消失

膝頭をハンマー等で軽く叩いたときに、一般的には本人の意識とは関係なくピクッと足が動きますが、このような現象を腱反射といいます。脊髄損傷を負うと、反射が過剰に生じる(反射の亢進)ことになります。

通常、痛みや温度などの刺激が皮膚組織に入力されるとき、感覚神経から脊髄を経て大脳に信号が届くことで、人間は「痛い」や「熱い・冷たい」と知覚することができます。他方、反射は、刺激の入力があった場合に、信号が感覚神経から脊髄まで行くのは同じですが、そこから大脳には行かずに脊髄内でターンして運動神経への信号となり、筋肉の収縮が起こります。そのため、前述のような脚気検査を行ったときには足がピクッと動くことになります。加えて反射が起きる際、通常ですと、反射の反応が過剰に起こりすぎないように制御がなされます。

しかし、脊髄損傷を負った場合、この制御が上手く働かなくなります。そのため、反射の反応が過剰に現れることになります。

また、そもそも脊髄損傷によって、脊髄内でターンする経路自体が障害されることもあり、その場合には反射による反応が減弱または消失します。脚気検査でいうならば、通常人と比べて反射による足の動きが少なかったり、あるいは全く足が動かないといった様子になります。

3.脊髄損傷の治療・リハビリ

参考:『脊椎脊髄損傷アドバンス(改訂第2版)-総合せき損センターの診断と治療の最前線-』181頁~198頁

⑴急性期

初期診療における神経学的評価に基づき、早期にリハビリによるゴールの設定がなされます。そして、可及的早期にリハビリを開始することが重要となります。急性期リハビリが不十分であると、拘縮や起立性低血圧の重篤化や遷延化にもつながり、そののちに行われる回復期リハビリにも支障をきたしかねないこととなります。とりわけ重要なのは座位訓練であり、起立性低血圧の予防や、全身の筋力や心肺機能の機能低下を防ぐためにこの訓練が行われます。

また、上下肢の麻痺を緩和させたり、関節を動かさないことにより関節が固まってしまうこと(関節拘縮)を予防するために、上下肢の可動域訓練も行われます。関節拘縮を予防しておかないと、せっかくリハビリで麻痺が回復したとしても四肢を動かすことが困難となり、日常生活動作(ADL)機能の低下を招くことにもなりかねません。

頚髄損傷により重度麻痺が生じ、呼吸器障害が生じている場合には、呼吸器合併症を予防するためにも呼吸理学療法も重要となってきます。従量式人工呼吸器などを用いたエアスタッキングや、専用器具の利用、座位により呼吸に負荷をかける等、様々な手法による呼吸筋トレーニングが行われます。

加えて、脊髄損傷の場合、体幹にも感覚麻痺が生じていることがあるため、はじめのうちは体幹バランスをとることも困難なことがあります。そのため、座位訓練により時間をかけて座位バランスを獲得し、それから日常基本動作訓練や立位保持訓練に移行していきます。立位保持訓練を通して立位感覚の獲得、バランス訓練を行いつつ、筋骨格や内臓の代謝を活性化させ、骨萎縮予防・腸管運動改善等も図っていきます。

リハビリが進んでくると、可動域訓練や徒手筋力増強訓練、寝返り起き上がり訓練等の訓練も行っていきます。こうしてリハビリを継続することで、脊柱や関節の拘縮を防ぐとともに、筋力や持久力を少しずつ増強させていきます。

⑵回復期

回復期では、急性期リハビリを経て回復してきた機能を活用し、日常生活への復帰や生活の自立を促進させることをポイントにリハビリが行われていきます。例えば、車椅子への移乗訓練や、車椅子の駆動訓練があります。対麻痺例では側方移乗や垂直移乗、四肢麻痺例では前方移乗など、麻痺の症状に合わせた訓練を行います。

リハビリを通して下肢筋力がMMT3~4程度に回復してくると、起立訓練歩行訓練もリハビリに取り入れていくこととなります。これらの訓練により、位置覚や運動覚などの深部感覚の評価も可能であり、脊髄損傷によって鈍麻・消失した深部感覚の再獲得や体幹支持機能の強化も見込むことができます。症状の程度や筋力の回復状況によっては、免荷した上での歩行訓・練が先行されることもあります。

⑶リハビリを通して歩けるようになるのか?

一般に脊髄損傷を負うと、下半身麻痺(下半身不随)が生じることが非常に多いです。そのため、一度歩行困難・歩行不能になってしまった状態から、リハビリを通して、歩行可能な状態に戻ることはできるのか、これが懸念されることが多いのではないでしょうか。

ここで、総合せき損センターに受傷後1週間以内に搬送され、入院時に歩行不能と診断され、半年以上の経過観察を行った精髄損傷負傷者の改善の推移をみてみますと、初診時に「運動不全で有用でない(=歩行できない)」と診断された人のうち約9割が半年後には「運動不全で有用である(=歩行できる)」状態に回復しており、独歩自立・杖を用いて独歩可能・車椅子を併用しながらではあるが独歩可能と、程度に段階はありますが概ね下半身の運動機能が回復していることがわかります。

また、「運動完全(下肢自動運動なし)」と初診された症例においては、約6割が同様に「運動不全で有用である(=歩行できる)」状態に回復しています。初めに「完全麻痺」と診断された症例については、独歩可能な状態まで回復することはきわめて困難であり、約85%が完全麻痺のまま推移が殆どない結果ではあるものの、他方で「運動不全で有用である(=歩行できる)」状態まで回復した症例も4%ながら確かに存在するため、可能性が全くに潰えてしまうものではありません。

結果として、脊髄損傷による下半身麻痺は程度に差はあれども回復する可能性は確かにあり、治療やリハビリに専念することが非常に重要であるといえます。

4.後遺症の残存と後遺障害

授業中や通学中、また課外指導中など、学校の管理下で起こった事故により脊髄を損傷し、治療・リハビリを続けたが後遺症が残ってしまった場合、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度に定められている障害見舞金の支払の請求ができることがあります。

脊髄損傷は、主に①麻痺の程度や範囲、②介護の要否や程度に応じて等級認定がなされる運用とされていますが、実際にはこれらの要素だけで認定されるわけではなく、残存している感覚障害の程度や、脊髄損傷を負傷したときに生じることが多い神経因性膀胱障害や直腸障害など、諸般の後遺症の程度や状況等も考慮の上で等級認定がなされています。以下では、脊髄損傷の場合において定められている後遺障害等級について、支給される障害見舞金額と合わせて解説していきます。

⑴第1級の3

せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」は、第1級の3が認定されます。支給される障害見舞金は4000万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は2000万円)となります。

具体的には、以下のものが該当します。

a 高度の四肢麻痺が認められるもの

b 高度の対麻痺が認められるもの

c 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

d 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

⑵第2級の3

せき髄症状のため、生命の維持に必要な身のまわり処理の動作について随時介護を要するもの」は、第2級の3が認定されます。支給される障害見舞金は3600万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は1800万円)となります。

具体的には、以下のものが該当します。

a 中等度の四肢麻痺が認められるもの

b 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

c 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

⑶第3級の3

生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、せき髄症状のために学校生活に著しい制限を受けているもの」は、第3級の3が認定されます。支給される障害見舞金は3140万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は1570万円)となります。

具体的には、以下のものが該当します。

a 軽度の四肢麻痺が認められるもの(別表第一第2級に該当するものを除く)

b 中等度の対麻痺が認められるもの(別表第一第1級または別表第一第2級に該当するものを除く)

⑷第5級の2

せき髄症状のため、学校生活に制限を受けており、極めて軽易な活動しか行うことができないもの」は、第5級の2が認定されます。支給される障害見舞金は1820万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は910万円)となります。

具体的には、以下のものが該当します。

a 軽度の対麻痺が認められるもの

b 一下肢の高度の単麻痺が認められるもの

⑸第7級の4

せき髄症状のため、学校生活に制限を受けており、軽易な活動しか行うことができないもの」は、第7級の4が認定されます。支給される障害見舞金は1270万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は635万円)となります。

具体的には、「一下肢の中等度の単麻痺が認められるもの」が該当します。

⑹第9級の10

通常の学校生活を送ることはできるが、せき髄症状のため、参加可能な活動が相当程度に制限されるもの」は、第9級の10が認定されます。支給される障害見舞金は590万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は295万円)となります。

具体的には、「一下肢の軽度の単麻痺が認められるもの」がこれに該当します。

⑺第12級の13

通常の学校生活を送ることはできるが、せき髄症状のため、多少の障害を残すもの」は、第12級の13が認定されます。支給される障害見舞金は225万円(通学中及びこれに準ずる場合の金額は112万5000円)となります。

具体的には、「運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの」が該当します。

また、運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるものも該当します。

5.損害賠償は「誰」に請求できる?

交通事故のように、加害者が明確にわかる場合には、誰に損害賠償請求ができるかというのも明瞭ですが、学校事故の場合は、加害生徒や加害教職員、学校など当事者が多いため、誰に請求していいのかわかりづらいところがあります。誰に賠償請求できるのか、以下で法的根拠と合わせて解説します。

⑴学校

学校が国公立学校であるか私立学校であるかによって分けて考える必要があります。

①国公立学校の場合

国公立学校における学校事故での損害賠償請求の法的根拠は、国家賠償法になります。

第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
② (省略)
第二条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
② (省略)

国公立学校の教職員による加害等の不法行為により児童や生徒に損害が生じた場合には、国家賠償法1条1項に基づき、国や市町村などの公共団体に対して損害賠償請求をすることになります。なお、不法行為を行った教職員個人への損害賠償請求を行うことはできません

また、学校の施設の瑕疵によって怪我をしたような場合は、国家賠償法2条1項に基づき、同じく国または公共団体に対して損害賠償請求することとなります。

②私立学校の場合

私立学校における学校事故での損害賠償請求の法的根拠は、民法になります。

私立学校の教職員による加害等の不法行為により児童や生徒に損害が生じた場合には、民法709条に基づき、基本的には教職員個人に対して損害賠償請求をすることになります。また、民法715条に基づき、加害教職員を雇用している学校や、加害教職員を指導する立場にある者(校長など)に対して損害賠償請求をすることもできます。更に、一般的に学校には、学校生活の中で生じる危険などから児童や生徒の生命・身体等を保護し、安全に配慮すべき義務(安全配慮義務といいます)があることから、民法415条に基づき、安全配慮義務違反という債務不履行を理由として、私立学校に対して損害賠償請求をすることができます

生徒が喧嘩して怪我をしたような場合には、民法714条1項に基づき、責任無能力者である生徒たちを監督する法的義務を負う監督義務者である教職員個人に対して損害賠償請求を行うことができます。

また、私立学校の施設の設置及び保存の瑕疵によって児童や生徒に損害が与えられた場合には、民法717条に基づき、私立学校に対して土地工作物責任を追及し、損害賠償請求をすることができます。

⑵加害生徒

①加害生徒が責任能力を有する場合

民法の条文上では、何歳から責任能力を有するかについての記載は見られませんが、判例の傾向からすると、概ね小学校卒業程度の年齢(13歳以上程度)だと責任能力を有すると考えることができます。

そのため、例えば中学校や高校で生徒が別の生徒を暴行し、被害生徒に損害が生じた場合には、被害生徒は、加害生徒本人に損害賠償請求をすることができます

②加害生徒が責任能力を有しない場合

加害生徒が責任能力を有しない場合(小学校低学年など)は、加害生徒本人に損害賠償はできません。この場合、民法714条に基づき、加害生徒の監督義務者である加害生徒の法定代理人(基本的には親権者であることが多いです。)に損害賠償請求をすることとなります

6.損害賠償は「何」を請求できる?

誰に請求できるかは5で解説したとおりですが、では、どのようなものを損害として賠償請求できるでしょうか。

まず、治療費や通院交通費、入通院慰謝料等を請求することができます。これに加えて、後遺症が残存し、自賠責に後遺障害等級認定を受けた時には後遺症逸失利益と後遺症慰謝料も請求することができます。

更に脊髄損傷の場合には、更に以下のようなものも請求できる可能性があります。判例と合わせて詳しく見ていきましょう。なお、判例は交通事故による損害賠償請求のものであるため、等級の号数が自賠責の後遺障害等級表に基づくものとなっております。また、被害者の年齢も児童や学生に限らないものとなっていますが、ポイントは、「判例でどのような損害が認められているのか」であるため、こちらで紹介しております。

⑴症状固定後の治療費

一般的には否定的に解される場合も多いですが、残存している症状の内容や程度等の具体的な事情を考慮し、支出が相当であると認められる場合に、損害として認定される傾向があります。

・さいたま地判平成21年2月25日(交民42・1・218)

四肢麻痺、意識障害等で別表第一第1級1号の女性(症状固定時54歳)について、日常生活には全介助を要すること、拘縮を防ぐためリハビリテーションが欠かせず、在宅介護への移行のため、自宅改修、導尿や経管栄養の技術を家族が習得する必要があったこと等から、症状固定後も、症状悪化を防ぎ、在宅介護への移行準備として入院治療が必要であったとして、症状固定後の治療費468万円余を認めた。

・大阪地判平成28年8月29日(交民49・6・1570)

四肢麻痺(別表第一第1級1号)の男性(症状固定時48歳)につき、症状固定後の約2年6か月の入院治療は後遺障害の内容程度から必要かつ相当なものであり、主治医が個室利用の必要性を認めていたことから、症状固定後の個室利用料を含む治療費470万円余を認めた。

⑵将来治療費

残存している症状の内容や程度等の諸般の事情を考慮した上で、将来治療の必要性や相当性が認められる場合に、損害として認定される傾向があります。

・大阪地判平成25年3月27日(交民46・2・491)

脊髄損傷による両下肢麻痺等の後遺障害(別表第一第1級1号)を残した男性(症状固定時24歳)につき、人工血管手術費用として250万円、歯科矯正費用として98万円余を認めた。

⑶付添看護費用

付添看護費用は、入院付添費・通院付添費・自宅付添費があります。

入院付添費は、医師の指示又は受傷の程度、被害者の年齢等より必要性が認められれば、職業付添人については実費全額、近親者付添人は1日につき6500円が被害者本人の損害として認定されます。

通院付添費は、症状又は幼児等付添が必要と認められる場合に、被害者本人の損害として肯定され、一般的に1日3300円で算定されます。

自宅付添費は、症状や被害者の年齢等から、自宅において近親者や職業付添人の付添が必要かつ相当であると認められる場合に認定される傾向があります。

・横浜地判平成29年7月18日(自保ジ2008・1)

四肢麻痺等(別表第一第1級1号)の男性(症状固定時52歳)につき、妻による症状固定までの口腔ケア、排便介助、リハビリ手伝い、足浴、手浴、夜中の寝具直し位置変更等の自宅介護費用及び通院付添費を、職業介護人による介護は週5日あり、入浴介護も行われていたこと、5日間の通院に付き添っていることなどを考慮して、日額8000円、240日間を認めたほか、介護業者による退院後から症状固定日の約1年9か月後までの訪問看護、入浴看護費合計119万8788円を認めた。

⑷将来介護費

医師の指示又は症状の程度により必要性が認められれば被害者本人の損害として認定されます。この時、金額は、職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円で算定されることが多いです。なお、訴訟中に被害者が死亡した場合には、死亡以降の介護は不要になるため、死亡後の介護費用は損害として認められません。

・福岡高判平成22年1月26日(自保ジ1824・55)

重度痙性四肢麻痺等(別表第一第1級1号)の男児(症状固定時7歳)につき、施設に入所中であるが、自宅介護の準備をしており、自宅介護が可能であるとして、母が67歳までは近親者介護料として週1日分8000円、職業介護人と近親者による週6日の介護料として日額2万円、母67歳以降は職業介護料として日額2万円、平均余命まで合計1億3227万円余を認めた。

⑸将来の通院交通費

将来的にも通院する必要性や相当性が認められる場合に、損害として認定されると考えられます。

・神戸地判平成20年7月1日(自保ジ1813・69)

両下肢完全麻痺、排尿障害等(別表第一第1級1号)の男性(症状固定時51歳)につき、症状固定後の定期的な経過観察のためのタクシーによる通院交通費として1か月ごとの通院1回につき往復6800円、平均余命28年間、合計121万円を認めた。

⑹装具・器具等購入費

車椅子や介護支援ベッド等、必要性が認められる場合に損害として認定される傾向にあります

・大阪地判平成5年2月22日(交民26・1・211)

頚髄損傷等により四肢麻痺及び無呼吸の男児(事故時4歳)につき、マットレス、オーバーテーブル、特殊ベッド購入費用計14万円余、人工呼吸器オーバーホール代、人工呼吸器付属品代計66万円余、頚椎固定器具購入費2万円余を認めた。

・東京地判平成11年7月29日(交民32・4・1227)

頚髄損傷により四肢完全麻痺、膀胱直腸障害等(第1級3号)の女性(症状固定時26歳)につき、手押し車椅子代21万円余(5年ごとの買替)、電動車椅子代234万円余(5年ごとの買替)のほか、介護用ベッド代(8年ごとの買替)、介護テーブル代、洗髪器、うがいキャッチ代など合計1164万円余を認めた。

⑺家屋・自動車等改造費

被害者の受傷の内容、後遺症の程度及び内容を具体的に検討し、必要性が認められる場合に、相当額が損害として認定されます。判例上、浴室やトイレ、玄関等の出入口、エレベーター、自動車の改造費等が認定されています。なお、家屋改造等により被害者以外の家族の利便性が向上すると認められる場合には、反射的利益に過ぎないとして減額がなされないこともあれば、割合で減額がなされる可能性もあります

・東京地判平成11年7月29日(交民32・4・1227)

頚髄損傷により四肢完全麻痺、膀胱直腸障害等(第1級3号)の女性(症状固定時26歳)につき、自宅の玄関までの通路が長い階段になっている高台に位置し、右通路部分に車椅子用の階段昇降機を設置する必要があるとして、その他室内の家屋改造費と合わせて2038万円余の請求に対して1778万円余を認めた。また、自動車改造のためのリフト等架装代150万円余を余命期間56年、8年ごと、443万円余を認めた。

・横浜地判平成12年1月21日(自保ジ1344・1)

後遺障害第1級3号の女児につき、介護用自動車購入費及び交換費(改造費含む購入費用1台400万円を6年ごとに12回買替が必要)1542万円余を認めた。

⑻学習費、通学付添費

被害の程度、内容、子供の年齢、家庭の状況を具体的に検討したうえで、学習、通学付添の必要性が認められた場合に損害として認定されます。

・大阪高判平成19年4月26日(判時1988・16)

醜状瘢痕(7級12号)、高次脳機能障害(5級2号)の併合3級である女児(症状固定時13歳)につき、退院後、通学を再開したが、傷害・入院及び後遺障害のため、学校の勉強に十分についていくことができなくなった場合に、退院直後から4年6か月間、家庭教師謝礼及び特別に使用しなければならなくなった教科書等の購入費合計272万円余を認めた。

・神戸地判平成22年7月13日(交民43・4・860)

頭部打撲、頚椎捻挫、第三腰椎横突起骨折等の専門学校生(女性・事故時18歳)につき、少なくとも1か月間は腰部その他全身の痛みのため一人で公共交通機関を用いて通学することが困難であったことから、母の自家用車による送迎を認め、1日3000円、15日間を認めた。

7.おわりに

スポーツ振興センターに正確に後遺症の状態を認識してもらい、適切な後遺障害等級審査を行ってもらうためには、画像による損傷高位診断、横断面診断、MRI画像上の脊髄内病変等の画像所見や、深部腱反射、病的反射検査、知覚検査、徒手筋力検査、筋萎縮検査などの神経学的所見は必須となり、場合によっては電気生理学的検査が必要となります。加えて、脊髄損傷後の日常生活状況を記した書面なども場合によっては必要となります。

このように、障害見舞金支払請求をする際には、後遺障害診断書に加えてさまざまな書類を準備したり、

医学的に後遺症を証明するような所見を得るために必要な検査を受けたりと、重要なポイントが数多くあります。

したがって、スポーツ振興センターに申請する段階から、等級獲得に向けて押さえるべきポイントを把握したうえで用意を行うことが望ましく、

そのためには後遺障害に関する経験や専門的知識が不可欠だといえます。

また、適切な賠償金を受け取るためには、学校事故における損害賠償請求を熟知し、経験もある被害者専門弁護士が介入することが望ましいものといえます。

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。