裁判
学校事故裁判では、子どもが裁判を起こすのか、親が裁判を起こすのか?
2022.01.28
【学校事故訴訟と原告・被告】学校事故裁判では、被害に遭った子どもが裁判を起こすのか、親が裁判を起こすのか?など
親(親権者)が訴訟提起します―子ども(未成年者)は訴訟提起などの訴訟活動をすることが原則として禁止されています
子どもが、学校事故の被害に遭った場合で、加害児童や学校側に対して裁判をするという場合、裁判を起こすのは、子ども自身になるのでしょうか、それとも親になるのでしょうか?
民事訴訟では裁判所に訴えを起こした側の当事者を「原告」といい、訴えを起こされた側の当事者を「被告」といいますが、学校事故訴訟でいうと、原告は、通常、学校事故で被害を受けた子ども本人ということになります。他方、被告は、多くの場合、加害生徒、市町村(公立小中学校の場合)、県(公立高校の場合)、学校法人(私立学校の場合)となります。
学校事故訴訟における原告は未成年者であることがほとんどで、また、加害者が学校ではなく生徒である場合には、被告も未成年者であることがほとんどということになります。
未成年者が裁判の原告や被告となる場合、民事訴訟法では、成人の場合とは異なる制度を用意しています。
具体的には、民事訴訟法第31条は「未成年者・・・は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。」と規定しています。
未成年者は、自身では、裁判での請求・主張や証拠の提出などの訴訟行為をすることができないのです。
そうすると、子どもが学校事故の被害に遭った場合で、裁判をするという場合、原告は子ども自身となりますが、訴えの提起をするのは、その子の法定代理人ということになります。
そして、この法定代理人というのは、原則として、親権者のことをいいます(民法第818条1項,民法第824条)。
したがって、学校事故の裁判をする場合、訴えの提起をするのは、学校事故被害に遭った子どもの親権者ということになります。
なお、これと同様に、加害生徒の子を被告として訴えの提起をする場合、被告は加害生徒の子となりますが、実際に被告として訴訟活動をするのは、原則として法定代理人である加害生徒の子の親権者ということになりますので、訴状には、加害生徒の子の情報のみならず、その親権者の氏名・住所を記載しなければなりません(民事訴訟法第133条2項1号)。
※加害生徒の行動について、親の監督責任を問う場合には、親自身が加害者と扱われますので、親自身が被告となります(民法第714条,民法第709条(最高裁判所昭和49年3月22日判決 民集28巻2号347頁))。
両親がそろって訴訟提起をしなければならないのか?父母の一方の判断で訴訟提起をすることができるのか?
学校事故裁判を起こすことができるのが親(親権者)であるとして、親(親権者)は父母いずれかの判断によって学校事故裁判を起こすことができるでしょうか?
たとえば、父はお世話になった学校だし裁判をすることに反対しているが、母は子どもが被害に遭ったことが許せないとして学校事故裁判を起こそうとしている場合、母は父の反対を押し切り、学校事故裁判を起こすことができるのでしょうか?
答えは、母の判断のみで学校事故裁判を起こすことはできません。
これは、母親だからダメという話ではなく、父が裁判に積極的で、母が裁判に消極的という場合であっても、父の判断のみで学校事故裁判を起こすことができないということになっています。
民法では、共同親権の原則というのがあり、「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。」とされています(民法第818条3項本文)。
したがって、学校事故裁判を起こすのかどうかの判断も、父母が共同して行わなければならず、一方の判断のみで、学校事故裁判を起こすことはできないのです。
ただし、父母の一方が親権を行うことできないといった事情がある場合には、他の一方が親権を行使することが許されていますので、この場合は、父母のいずれか一方の判断のみで学校事故裁判を起こすことができます(民法第818条3項ただし書)。
弁護士に学校事故裁判を起こしてもらう場合は、どうなるのか?
学校事故裁判の場合、親権者の方がご自身で裁判をするというのは、なかなかハードルが高く、ご自身で裁判をしたとしても、敗訴してしまったり、適正な慰謝料などの損害賠償金を得られなくなる可能性が高いです。
多くの場合、弁護士に依頼して学校事故の裁判を行うことになるでしょう。
この場合、弁護士に依頼するのは、学校事故被害に遭った子ども自身が行うのか、その親(親権者)が行うのかという問題が生じますが、弁護士に依頼するのは、原則として親(親権者)ということになります。
したがって、学校事故被害に遭った子どもの親(親権者)が、弁護士と委任契約を締結し、弁護士に裁判してもらうという流れになります。
なお、親権は原則として共同親権に服するとされていますので(民法第818条3項本文)、弁護士に依頼をするのは、父母のうちの一方のみが委任契約を締結するのでは足りず、父母が共同して委任契約を締結する必要があります。
親(親権者)以外の人が学校事故裁判を起こすことができるケースはあるのか?
学校事故裁判を起こすのは、親(親権者)というのが原則ですが、例外的に、親(親権者)以外の人が訴訟提起できる場合というのがあります。
18歳の生徒は自身で学校事故裁判を起こすことができます―逆に親が学校事故裁判を起こすことは禁止されます
民法が改正され、令和4年4月1日から、「年齢18歳をもって、成年とする。」と定められました(民法第4条)。
したがって、高校3年生、満18歳の生徒が学校事故に遭った場合、当該生徒はそもそも未成年者ではありませんので、自身で学校事故裁判を起こすなり、弁護士に依頼して学校事故裁判を起こす必要があります。
ただ、実際には、親御さんと共に弁護士と法律相談を行い、弁護士に依頼するかどうかを決めるといったケースが多いです。
学校事故被害に遭った際には18歳ではなかったが、その後18歳になった場合は、子ども自身が学校事故裁判を起こすことができますー逆に親が学校事故裁判を起こすことは禁止されます
学校事故被害に遭った際は17歳以下でしたが、学校事故被害による治療が終わり、いよいよこれから裁判しようかどうかという際には、18歳に達していたという場合はどうなるでしょうか?
この場合も、18歳の生徒が学校事故被害に遭った場合と同様、当該子どもはそもそも未成年者ではなくなりましたので、自身で学校事故裁判を起こすなり、弁護士に依頼して学校事故裁判を起こす必要があります。
すなわち、学校事故の時点で未成年者であったか否かで自分が裁判をするのか親が裁判をするのかが決まるわけではなく、訴え提起をする時点で未成年者であったか否かで親と子のどちらが裁判をするのかが決まることになります。
なお、学校事故被害に遭った際の損害賠償請求は、治療が終わってから5年以内に行わないと、消滅時効にかかってしてしまうことがあるので、注意が必要です(民法第166条1項1号,民法第724条の2)。時効についての詳細は、こちらのページをご覧ください。
親(親権者)がいない子どもの場合には、未成年後見人が学校事故裁判を起こすことになります
民事訴訟法では、「未成年者・・・は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。」とされていて(民事訴訟法第31条)、民法上、その法定代理人というのは、原則として親権者であると定められています(民法第818条1項,民法第824条)。
なお、養子縁組関係にある場合は、養親が親権者ということになります(民法第818条2項)。
では、親や養親がいない子どもの場合は、どうなるのでしょうか?
この場合は、未成年者に対して親権を行う者がないときは、未成年後見が開始されると規定されていて(民法第838条1号)、未成年後見人が法定代理人となって、学校事故裁判を起こすことになります。
未成年後見人は、最後に親権を行っていた親が死亡してしまった場合で、その親が遺言で未成年後見人を指定していた時は、その者が未成年後見人となったりすることがありますが(民法第839条)、多くの場合、未成年後見人を親が指定することなく突然亡くなってしまったりしますので、家庭裁判所が児童相談所などからの請求を受けて、未成年後見人の指定を行います(民法第840条)。
未成年後見人には、親族が選任されることもあれば、弁護士などの専門家が選任されることもあります。
学校死亡事故の場合は、相続人が学校事故裁判を起こすことになります
学校事故被害に遭った子どもが死亡してしまったという場合は、相続人が学校事故裁判を起こすことになります。
ほとんどの場合、学校事故被害の死亡事故ですと、親が相続人となりますので(民法第889条1項1号)、親が原告となって学校事故裁判を提起することになります。
なお、ここでは親権は関係ありませんので、学校事故の前に両親が離婚していたとしても、親権者でない親も相続人となり、両者の相続分は1/2ずつということになります。
具体的には、学校事故被害によって死亡した子どもに8000万円の損害が生じた場合は、父母それぞれが4000万円ずつ損害賠償請求権を相続することになります。